第850話 氷月の思いと共に
「この死んでも何も残らない。残したいの……貴方に貴方と共に生き、共に死にたい」
「氷月……僕は」
「何も言わないで、お兄ちゃんから全部聞いているから。紫音が弟とケンカ別れして、氷川家から出て、東京本部の佐倉家の人間になった事を……そして、お兄ちゃんから佐倉家を守る為に上原家と契約を結び、私と許嫁になった事を……好きになれないよね?」
「ごめん」
「それで良いの。それが良いの。互いに好きと分かっていたら、別れなんて告げられなかった。一方的で独りよがりで……叶うことの無い事と知りながらも、この溢れる思いは止まらなかった。私の人生でこれ程、幸せに満たされた時はなかった。ありがとう、紫音」
全身が氷となり口も無いがその声は肉声のまま、最後は声がかすれており、目からは水が流れた。氷の体では涙の成分等はなく、ただの水が目から流れ様な構造でも無いこの体で涙に見せかけた水を流したのは、氷月が体は氷となったが、最後のこの瞬間のみは、紫音の前だけは人としてありたかった。
「氷月」
「選んで……紫音」
氷月は氷となった体を溶かし始める。
これによって、紫音に選択を迫っていた。このまま何もしなければ氷月は溶けてなくなり、氷月を見殺しにするようなものだ。これを救うには氷月の提案通り氷月と氷神撃滅剣を氷神の花畑に加え、統合させ、氷月の思いを叶える方法を取るか。
「……氷月、僕は」
「紫音、何も言わないで……選んで」
紫音は宙に浮かぶ氷で造られた蓮の花を自身の周りに配置させ、体を覆っていた氷を破壊する。
「……僕は将来医者になりたいんだ」
「初めて聞いた」
「誰にも言った事は無かったよ。治癒魔法や回復系統の能力、異能がある以上必要性は低いけど、それでも薬等は今も人の手で無ければ造れない。僕は人を救う仕事をしたいんだ」
「素敵」
「……僕は選ぶよ。君を」
「ありがとう」
紫音の周りにある氷で造られた蓮の花と体の全てが氷となった氷月を手にしていた氷神撃滅剣へ注ぎ込む。
全てが氷神撃滅剣に統合されると、全て氷で造られ、蓮の花が特徴的な氷の剣となる。
「全て終わったか」
氷が被害が出ない様にと対策し、氷竜をドーム状に配置させたその場所に紫音、氷以外の人間の声が発せられる。
「上原氷雪。暴滅氷神竜をどう退けた?触れれば、切断する氷竜から」
「それに関しては君の知るところでは無いよ」
氷雪は一瞬にして、紫音の所まで氷で造られた階段を即座に造り上げ、その階段を登っていく。




