第848話未完成の終焉の冬(フィンブル)
「私の体から能力は無くなり、今まで溜め込んだ力が出現する」
「……条件は何かしら?」
「アメリカ軍の特殊な儀式を受けた私は五つの能力、異能を体内に宿さなくても、一部だけでも、可能となっている。私は紫音と一つとなる」
「そこまで……歪んでいるとは」
「……」
氷月の体は徐々に崩れると、そこには全て氷で形付くられた存在がそこに居た。
「もうここに留まる理由は無い」
氷月は浮遊しながら外へとゆっくりと向かっていく。
レイチェルなら、止める事も出来るが氷月の目的が紫音である事に興味を示す様にコキュートスの扉を開ける。
「……完成したか」
「お兄ちゃん。私は詩音に会いに行くよ」
「……人の体を捨てたんだ。もう引き返せないぞ」
「覚悟は出来ている。最後のわがままを聞いてくれてありがとう」
「好きにしろ。アメリカにどんな被害を出しても構わないと言われている。アメリカも完全な終焉の冬では無いが知りたいらしい」
「……どうでも良いよ。この力があれば……私と紫音は永遠に氷の中で一緒に暮らせる」
「もう何も言う事は無い。やりたいようにしろ」
氷月は高く飛行すると、ゆっくりと紫音が居る方向へと向かっていく。
そんな氷月に続くように待機していたアメリカ軍の兵士達が続く。
「……兄貴、どうする?」
コキュートスから逃走し、氷竜に乗っている氷は紫音へ尋ねる。
「氷雪を止める事も、氷月を救うことを出来なかったな」
「帰ろうにも移動手段が絶望的だな」
「……飛行機で帰る事も出来るけど」
「そうだな。金があればなぁ」
「……嫌、どのみち飛行出来るかは分からない」
「そう言えば、管理する神No.9チーム[バベル]がアメリカに居るんだったなぁ」
「問題は何でチーム[バベル]がアメリカに居るのかだね」
「……もう疲れたぜぇ。アメリカ軍もチーム[バベル]とも会わずにやり過ごす」
「上手く行けば良いけどね」
「何だ、その口振りは……無理だと?」
「何が有るかは分からないさ」
「……本当だぁ。氷の人間が目の前を塞ぎやがった」
「まさか、氷月……なのか?」
氷とは言え、見た目は氷月そのものである。
「……誰かが、俺達の動揺を誘うために造った可能性もあるだろう」
「これからコキュートスでコールドスリープされる人間をわざわざ選ぶと思うか?」
「……だったら、これは何だ?」
二人が困惑している中、その氷で造られた氷月は口を開く。
「紫音。私は貴方と一緒に死にたい。……そして、いつまでも私と一緒に」