第847話 コールドスリープ
紫音の敗北が決定的となった今、このまま兄の紫音が黙ってやられるものを見ているだけで留まる事が出来る訳もなく氷は動き出す。
しかし、氷の体は動かない。氷は慌てて、足元を確認する。
「……くっ……いつの間に」
「兄が危機に陥れば、弟が出てくると思ったぞ」
氷雪の視界の全てがいつでも凍らせる事が出来る為、どのタイミングで氷の足元が凍りついたのか、本人ですら把握していない事だった。
「……甘いな。上原氷雪」
氷のその言葉と同時に暴滅氷神竜を
発動させる。暴滅氷神竜は出現させた氷竜に衝突した物体を切断させ、通過した後にその箇所を凍らせる異能である。
人間の腕に衝突すれば、腕を切断後切断箇所同士を氷で繋ぎ止め、奇妙な姿になる。痛み等は無いが、氷が溶ける、破壊されると切断され、痛みに襲われる。氷雪の月下氷神は氷に接触している対象物を操作出来るもので氷の動くを封じていたにも関わらず、暴滅氷神竜は問題なく発動していた。
「……氷竜は無意識でも俺を守る為に動くんだよ」
氷のその言葉通りに氷竜は氷の足元の氷を尾で叩きつけ、破壊する。その後、氷は氷竜を無数に出現させ、氷雪の瞬間冷凍に対抗するように隙間なく、配置すると、氷は氷竜に乗り紫音の元まで移動し、紫音の足元の氷を氷竜の尾で叩きつけ、破壊する。
「すまない」
「気にするな。それよりも逃げねぇと」
「うん」
紫音は氷が出現させた氷竜に股がり、二人はコキュートスから離脱する。
「……その気になれば、止められたのでは?」
レイチェルのその言葉に氷雪は直ぐ様、返答する。
「それは貴女もですよ」
「……私はそもそも、あの二人をどうこうしようとは思ってないわ。ただ見たかっただけ……満足よ」
「そうですか。氷月のコールドスリープは頼みます」
アメリカの上層部からの命令を受けているレイチェルはそれを断る事は出来ない。
「最後に聞くわ。目的は何かしら?」
「……」
「終焉の冬をどこまで知っているの?」
「上原家で調べられる範囲ですよ」
「……そう。良いわコールドスリープの件は直ぐにでもするわ」
氷月はレイチェルの後に続いて、コキュートス内へと入っていく。
「……」
「無理も無いわ寒いでしょう。横になって」
「はい」
「このまま凍らせるわ。何か言うことはある?」
「……終焉の冬はここに完成する」
「……はぁ?」
「アメリカ軍と上原家の取り決めで、五つの能力、異能を合わせなくても終焉の冬にする事は可能なのよ」
「……ここに来てからの発言、コキュートス内に侵入することが目的ってことね?」