第841話 舞い降りし兄弟
橘家が所有する自家用ジェット機は突然大きく揺れ始める。
「なんだ?」
突然の出来事に氷は思わず声を漏らす。
すると、運転をしていた筈の凍結が紫音と氷雪の二人の目の前に現れる。
「てめぇ……運転はどうした?」
氷は凍結の元へふらつきながらも、向かっていく。
「氷。止めるんだ!今はここから、脱出をしよう」
紫音は凍結が現れた時点でこの揺れの原因が攻撃にあると把握し、ここからの脱出を促す。
「……お前達二人だけで行け」
「凍結」
「佐倉紫音……氷雪様の事は頼む。あの人は多くのものを抱え過ぎた。俺の役目はあの人の力になることだった。だが、非力な俺では出来る事は限られ、何も出来ずにここまで来た。……これを」
凍結は布に包まれたものを紫音に手渡す。
「これは……」
「……分かるだろう?……早く行け!」
墜落は止まる事なく、今現在も続いている。そんな状況で氷は紫音の手を引く。
「兄貴、もう出ようぜ」
「……しかし」
「氷を利用して飛べるのは俺と兄貴だけだ。凍結を抱き抱えたまま、アメリカ軍の攻撃は避けられない。……こいつの為に命をかけるのか?」
二人の言い争うを見かねた凍結は氷を造ると躊躇いも無く、心臓へと突き刺す。
「……死んだな」
「何故、分かる?」
「凍結は死人を連れていっても意味が無いと思わせたかった筈だ。ならば、確実に死ぬ一撃を己にする筈だ!無駄にするのか?こいつの覚悟を……何よりも託されたんだろ?」
氷のその言葉を受け、紫音は決断する。
二人は自家用ジェット機を凍らせると、それを破壊して外へと脱出する。
二人は氷の翼を背に生やすと、飛行を開始する。
コキュートス付近のその出来事は直ぐにコキュートスを一人で管理するレイチェルの耳に入る。
「レイチェル様」
「……悪いのだけど、手が離せないの」
レイチェルはこれからアメリカ軍から言い渡された命令を遂げようとしていたその最中に声をかけられ、苛立つレイチェルだったが、引く様子の無い男を見かね、レイチェルは尋ねる。
「それで何かしら?」
「未確認のジェット機を破壊したのですが、二名が逃れまして」
「……私が聞く必要があるのしから?」
「……二人とも、氷の翼を生やして、飛行しておりましたので……」
「貴方の知り合い?」
レイチェルは氷雪へ尋ねる。
「……上原家の者はここに居る二人しか居ませんよ」
「攻撃は止めなさい。誰なのか直ぐに確認して」
「はい!直ぐに」
男は直ぐに車に戻り、確認を始める。
「確認が取れました」




