第835話 ステルス機
「お待ちしておりました」
軍用の車から出てきた男は後ろのドアを開け、待ち構える。
レイチェルは無言のまま、車へと乗り込む。男は後ろのドアを閉めると、運転席に付き、車を動かす。
「コキュートス内に居て、外の様子が全く分からないのだけど、分かる範囲で良いから聞いても良いかしら?」
「……全ての元凶は管理する神No.8チーム[パンドラ]のリーダーが造り上げた十鬼シリーズの一体、幻魔です。幻魔のかけた幻覚にアメリカを含めた世界中がかかっていたのです」
「根拠はあるのかしら?」
「……この事はアメリカ軍の上層部は全員知っており、アメリカ軍の元帥マーク・レベレスタ様も知っておられたとの事です」
「……私も幻覚にかかっていたって事かしら……幻覚が解けて、囚人の数に違いが出たとしたら、囚人達の脱獄は最近の出来事では無いわね」
「私の様な二等兵では分からぬ事です。大将五人集まるのですから、幻魔討伐に加わったスカーレット様に聞かれたらどうですか?」
「……」
レイチェルは口元を緩めた。会話が途切れた事によって男はバックミラーを確認する。
「どうかされましたか?」
「……何でも無いわ」
レイチェルは誤魔化したものの、スカーレットの活躍を素直に喜んでいた。スカーレットが大将になる前からの知り合いであり、相反する魔力を持って生まれた事によって、魔力が上手く作れなかったスカーレットにアドバイスしたのが、レイチェルである。その後、相反する魔力を同時に放出させる手段である対極魔法を獲得したスカーレットは瞬く間に大将まで昇格する。しかし、二人の接点は大将が全員召集される時のみである。
「着きました」
男は車を止めると、待っていた別の男が車の後ろのドアを開ける。
「……召集場所がバレぬ様にここからはステルス機で移動してもらいます」
「了解したわ」
現在はステルス機能を発動させていない黒い航空機にレイチェルは乗り込む。
「久しぶりね。レイチェル」
先にステルス機に乗って居た黒髪に褐色肌の女性がレイチェルと目が会った瞬間に話しかける。
「……イザベラ……相も変わらず、日本の衣服ですか」
レイチェルは昔から変わる事なくイザベラが着ている和服を見て呆れた様に告げる。
「毎年、日本の大親友が送ってくれるの」
「……留学先で出会ったと言うレナ・カワカミの事ですね」
「そうなの。もう何年も会ってないわ……イサムの葬儀の時に会ったのが最後だったかしら」
「会いに行かれては?」




