第823話 記憶の返還
「つまり、こいつは味方だと?」
天舞音から説明を受けた柚子は再確認を取る。
「そうよ。それで記憶を戻したいのだけど」
「はぁ?……話が見えないのだけど」
「記憶を戻すのを邪魔しないで貰いたいのだけど」
「構わないわ。好きにしたら」
柚子は舞から離れ、天舞音の提案を受け入れる。
「……鏡に写って貰うわ」
「分かった」
天舞音が出現させた鏡にジークは姿を写した。
「これで良いかな?」
「ええ、大丈夫よ」
天舞音はジークの姿を写した鏡の景色を固定させる。
続けて、天舞音は破壊した舞の姿を写した鏡を再び造りだし、その鏡と、ジークの姿が写った鏡を舞の頭の中へと入れていく。
「これで記憶が戻るの?」
側で見ていた柚子はその疑問を天舞音へとぶつける。
「出来るわ。ほら、起き上がった」
天舞音の言う様に舞は静かにゆっくりと起き上がる。
「……アメリカに行かないと」
起き上がって直ぐに舞が発したのはその一言だった。
「はぁ?アメリカ?」
突然舞の口から出た言葉に戸惑う天舞音にジークに近寄る。
「……僕の記憶も一緒に戻ったんだ。知ってしまったのだろう」
「何を?」
「アメリカに木山廉が居ることを」
「それが何?」
「……アメリカは今、色々とあって、面倒な状況でね」
「その面倒が伝わったのね」
舞の口から出たアメリカの正体が分かった天舞音の元に起き上がった舞が近づいている。
「元気そうね」
「……昔会った事があるよね」
「川上道場でね」
「……全て、思い出した。なんで忘れていたんだろう」
「川上玲奈に頼まれて、貴女の姿を鏡に写して、破壊することで貴女の記憶の一部である父親と兄の記憶破壊したのよ」
「……お兄ちゃんは?」
「生きているそうよ。今は[レジスタンス]の拠点で生活しているらしいわ」
「……貴女の異能でアメリカの何処でも良いから鏡で移動出来ない?」
「無理ね。鏡での移動は日本の県をまたぐ程度位でないと、北海道支部からここまで来るのにも、何度も経由してようやくここに来れたのよ。アメリカなんてとても無理ね。そもそも、海を渡るとなると鏡が海に都合良く無いと困るわ。そもそも、私にはアイドルとしての仕事も有ることだし、行けそうにないわ」
「……そっか……どうしよう」
「そんなにアメリカに行きたいなら、飛行機は?」
「……出来るだけ、早く行きたい!」
「なら、ジークに転移魔法で連れていって貰えば」
天舞音の提案に今まで隠れる様にして、そこに居たジークに舞は気がつく。
「……貴方の記憶を知ったよ。……アメリカに般若の仮面を持っていくんでしょ?私も一緒に」