第822話 魂の催促
「……その話はもう聞かないであげるわ。で、何故記憶を戻すの?」
「催促されたからね。川上玲奈に」
「……川上玲奈はお前が魂を抜き取った筈だ。その川上玲奈がどう催促する?魂を戻したのか?黄金宝石の剣も体内に戻したのか?」
「全て違うね」
「……だったら、なんだ?いい加減な事をほざくな。川上舞と川上玲奈を戦闘不能にさせるのは二人で協力してやる計画だったろ?一人で川上玲奈を片付け、川上舞を私に押し付けておいて……今更、記憶を戻せだと?」
「相変わらず、川上玲奈と川上舞の事になると冷静さを失うな」
「黙れ。お前なら理解出来る筈だ。九十九五三六が居なければ私とジークはあの時に死んでいた。命の恩人であるあの人の遺言を忘れたとは言わせない!」
「……理解しているさ。妻である川上玲奈と娘である川上舞……そして九十九家に引き渡された九十九一夜は守る約束だ」
「……それで、九十九家にいるそいつはどうなの?」
「……色々あってね。友人を失ってからは自暴自棄になられた。九十九家を飛び出し、居場所も無い様だから、[レジスタンス]の拠点で生活を送って貰っている」
「警護は?」
「彼の実力なら必要は無いと判断したよ」
「……川上舞の記憶の消去の際に鏡に川上舞の姿を写して見たけど、父親の五三六さんの死後、記憶が混濁している影響で私やジークも含めた道場メンバー達の記憶は殆んど無くなっていたわ」
「……川上舞の記憶を戻す際に僕の記憶も鏡に写し、川上舞の頭に入れて貰いたい」
「……そんな事をしたら、記憶の混濁で変化した異能妖魔剣創造は元の紅桜へ戻るわ」
「それが目的だ」
「川上玲奈に催促されたと言っていたけど、どうゆう事?」
天舞音のその問いにジークは鎖で縛り付け、持ち歩いている黒棺を指差す。
「魂にね」
「……そう。川上玲奈の魂も戻すのね?」
「……そうするつもりだ。僕の潜入もバレそうだからね。返せる内に返さないと」
「……死ぬつもり?」
「そこまでの覚悟はまだ出来ていない。いつそうなっても可笑しくはなかった。そんなギリギリの中、潜入していたからね。でも、もう長く無いことだけは分かっている」
「……そう。それじゃあ、生きている内に貴方に借りた借りを返さないとね」
「それは有難い」
天舞音はジークのその話を了承して、舞と柚子が待つ、場所へと移動する。
「ジークフリード・アンサンブル!」
突然現れたジークに柚子は氷神の聖剣を出現させ、それをジークに向ける。警戒を強める柚子に天舞音は語りかける。