第821話 般若の邪剣士
研究所を崩壊させた天舞音は自身が所有している鏡の世界に鏡を伝って入ろうとしていた。今回の目的は翁の魔剣士の討伐ではなく、舞の救出である事から、これ以上の長居はする必要は無く天舞音は今にも手に持っている手鏡を利用して戻ろうとしていた。しかし、そんな天舞音の手が止まる。
移動しようとすれば、一瞬で移動を終える事も出来る状況にも関わらず、天舞音はその手を止めた。
「……般若の邪剣士ね。チーム[マスク]は二人で病院を襲っていたから、貴方の存在は気になっていたわ」
「……般若の邪剣士?誰の事だい?」
般若の邪剣士は手に仮面を持っているだけで、しっかりとつけてはいなかった。そんな仮面を軽く投げる。
「チーム[マスク]のつけている仮面を付ける勇気は僕には無いよ」
「……管理する神のスパイはもう良いの?ジーク?」
般若の仮面を投げ捨てたその男はジークフリード・アンサンブル。
天舞音に舞の記憶の消去を依頼した張本人であり、チーム[ヴァルハラ]の副リーダーを務めている男である。そんなジークだが、[レジスタンス]に所属しており、世界中に管理する神の情報を流しているスパイ活動している人物でもある。
「……もう少し、続けるさ。それよりも翁の仮面は何処に?」
「仮面……破壊されたと思うけど」
「……そう。仮面を付けた者は仮面に施された呪術によって、仮面に埋め込まれた魔法、能力、異能等の力を得る事が出来る。出来るだけ、破壊しておきたい」
「……この研究所で造られた物?」
「そうだよ。上手く隠蔽しているみたいだけどね」
「さすがは管理する神にスパイとして潜入しているだけはあるわね」
「……相変わらずの口振りだね。それで川上舞は?」
「記憶を奪わせた相手の事が気になるのかしら?」
「今回は記憶を取り戻してほしくて、直接伝えに来たんだ」
「鏡ごしでは断れると考えのね。その考えは正しいは、それを聞いて断ろうと思ったからね」
「……取りあえず、川上舞の所に移動してくれると有難いのだけど」
「……構わないわ」
天舞音は地面を鏡張りにすると、自身とジークを鏡の内部へと移動させ、舞と柚子も居る鏡で造られた天舞音が所有する空間へと移動していた。
「……その趣味の悪い仮面はどうするの?」
天舞音は自身の所有している空間まで持ち込んだ般若の仮面を指差し、尋ねる。
「……この仮面の技術を欲しがっている人が居るからね。これを渡す予定だよ」
「人ではなく、国でしょう?」
「察しが良いな。確かにアメリカが欲しがっている物だよ」