第817話 翁(おきな)の仮面
柚子は手にしている氷神の聖剣を振るい、扉を凍りつかせた。これによって、侵入者が簡単に入る事を禁じると共に破壊手段を見ることによって相手の力量を知る事が出来る。
しかし、扉は開かれる事も破壊される事もなかった。
「……この階には居たけど……目的地はここでは無い?」
足音が遠ざかっている事で目的が舞で無いことを知り、安堵すると共に侵入者達の目的が気がかりだった。
「……この階は寝たきりの状態の患者が集められていたわね。……誰を狙っているのかしら?」
この階が寝たきりの状態の患者が集められた事は理解していた柚子だったが、侵入者達の目的は見当もつかず、そこで立ち尽くす。
暫く時間が経過した時、サイレンは止まり、電気も消える。
「……やられたわね」
柚子は病室から突然聞こえたその声に驚愕する。
舞の声を聞いた事のある柚子は直ぐにこの声の主が舞で無い事を把握し、声の方向へと体を向ける。
鏡に写ったその姿を見て、直ぐに逆方向を確認する。部屋には立ち尽くす柚子とベッドに寝たきりの舞の二人だけであり、鏡に写った人物は鏡のみで写っていた。
「有栖川天舞音」
柚子はテレビや雑誌で知った情報だけで知ったその情報のみで鏡に写った人物の名を言い当てる。
「さっきも言ったと思うけど、やられているわよ」
「何を言っているの?」
「……ずっと、鏡で見ていたけど、サイレン音が聞こえていたみたいだけど?」
「……聞こえていたわ」
「……ベッドと外をご覧なさい」
天舞音の言葉を受け、柚子はベッドを確認する。
そこには舞の姿は無く、氷付けた筈の扉は凍っておらず、柚子は慌てて、外を確認するため、窓へと駆ける。
「……護衛部隊が警護を……高城崇も、どうゆう事?」
「翁の仮面の幻覚ね」
「……五感の感覚を奪われていたの?」
「見ていた限り、そうね」
「見ているだけなんて、いい趣味ね」
「何でも声をかけたんだけどね」
「……それで、川上舞は何処に?」
「取りあえず、私は今私の所有している鏡の別空間で移動しているんだけど、北海道支部と東京本部の距離があるせいで一気に飛べそうも無いの。……貴女は川上舞を救うつもりはあるのかしら?」
「……一つ聞かせて。翁の仮面を付けた奴は幻覚をかかった私を素通りして、この病室が川上舞を連れ去ったの?」
「……ええ、貴女は剣を構えているだけで、何もしなかったからね」
「助けるわ。護衛を任せれておいて、この失態。川上舞を連れ戻して、翁の仮面を倒す!」