第815話 暗躍の氷雪
四月十日(深夜)
「お前の仕事の早さはいつも驚かされているが、今日はいつもよりも早いな」
日本能力育成育成機関元東京本部防衛局の副局長室の椅子に腰掛けている橘強絶は自身が率いるチーム[雷帝軍]の副リーダーである上原氷雪の仕事の早さを称賛していた。
「明日休みを貰うからな」
「アメリカに行くんだったな。……妹を連れ……お前の計画の犠牲者は佐倉家だけに留まらず、妹まで巻き込むか」
「強絶。力とは代償を伴うものだよ。何も失わずして得るものなどはない。それがあるとしても、大したものではないと断言するよ。だからこそ、多大な犠牲を払い大きな利益を手に入れる。全ての犠牲を払い手に入れる」
「……昔からそればかりだな。今更止める事はしない。好きにしたらいい」
「そうさせて貰うよ。僕の留守の間は凍結に任せているから」
「了解した」
アメリカへと飛びたった氷雪は妹である氷月を連れ、アメリカのとある研究所に向かう事になる。
そして、その事実を知っている強絶はそれを伝えに行った。
「……ずっと、見ているつもりか?」
寝たきりとなった舞の看病の為、病室に居た佐倉紫音に声をかけたのは双子の弟の氷川氷だった。
「氷どうしたんだ?強襲部隊の仕事は終わったのか?」
「……今日は仕事をしていない」
「ここに来たからには何かあるのか?」
「防衛局副局長から聞いた話だ。上原氷雪が上原氷月を連れアメリカに飛んだらしい」
「それを僕に言って、どうしろと?」
「氷月は許嫁らしいな」
「上原家から佐倉家を守る為にそれを了承しただけさ」
「氷月を助けろとは言わない。でも、氷雪は止めないとならない。その理由はもう分かっているだろう?」
「氷系統の能力、異能を統合しようとしている事かい?」
「知っているなら、分かるだろ?止めねぇとならねぇ事ぐらい!氷雪は間違い無く、兄貴の元々の異能を所持している。俺はその異能がどうゆうものなのかは知らねぇが、あいつがこれ以上、統合させるわけにはいかない」
「……氷雪は一年に二度だけだ。統合を行えるのは」
「それを知っていて、止めなかったのか?」
「止められるなら、止めていたさ」
「一人なら、だろう?それ」
「二人なら止められるとでも?」
「二人だから、止められるんだろうが」
「……舞を置いて行けない」
紫音が寝込む舞に目をやるとそれを想定していた氷は
「入ってこい」
氷のその言葉によって、病室の扉が開き一人の女性が現れる。
「佐倉柚子だ。こいつなら、安心だ」