第808話 精神世界にて
自問自答の穢れなき聖剣に刺された廉は光に包まれた空間に居た。
「……ここは」
「お前の精神世界だ」
廉は声のする方向へ向き、声の主の姿を確認をする。
そこには廉に似た姿の人間が居た。しかし、似ているのは顔のみであり、声は穢れなき聖剣から聞こえたものであった。
「穢れなき聖剣なのか?」
「どうだろうな。自問自答の果てにて、己の進むべき道を決めるが良い」
「ローランもこれで正気を取り戻したのか。良いぜ。で、何をしたら良いんだ?」
「……簡単な事だ。俺と戦って貰う。ルールも無く、時間制限も無い。持てる全てをぶつけろ!」
廉に良く似た存在は右手から炎を放出させ、降炎魔神剣を手にする。
「それって……」
「降炎魔神剣だ。記憶を失ったお前の異能は変化したがな」
「……異能は思いによって、力を引き出せると言われている。……失った記憶に何かあるのか?」
「問題はそこではない。お前が一方的に引き出しているのみだ。お前はレヴァンティンにもうすぐ寄り添え」
「……やってみる」
廉はアドバイス通りに異能を発動させる。
しかし、出現したのは炎神の魔剣であった。
「……くそっ」
廉は思い通りに行かず、その悔しさを声に漏らしていた。
「……行くぞ」
廉に似た存在は急に廉に近づき、降炎魔神剣を振るう。廉は慌てて、炎神の魔剣で防いで見せた。
「……本来のレヴァンティンじゃあ無くても良いのかよ」
「何度やっても同じだ。戦いの中で悟るが良い。レヴァンティンの力を」
廉に似た存在は降炎魔神剣の赤い炎を黒い色の炎へと変化させていた。
「……覚醒」
「そうだ。降炎魔神剣はこれより、深炎魔神剣となる」
「……負けるかよ」
廉に似た存在に対抗する様に廉は炎神の魔剣を覚醒させ、赤い炎から黒い色の炎へと変化させ、黒炎神の魔剣へと覚醒させる。
「……それで引き出したと言えるか?」
廉に似た存在は深炎魔神剣から放出している黒い色の炎を更に増加させ、廉の黒炎神の魔剣を呑み込む。
「……体内に宿していた神器の破損、喪失は持ち主に精神的なダメージとしてリンクする。破損なら、精神深くにダメージを与えるが、喪失は魂もろとも喪失する」
廉に似た存在の言う通りで、廉の顔から精気が失われていた。
「木山廉。ここから這い上がれ」
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(ここは何処だ?)
廉はまるで黒い海の底の様な場所で動けず、ただその場に居た。
(俺は誰だ?)
廉はその場が何処かだけでなく、自身の存在まで認識が出来ていなかった。




