第781話 別行動
自身の体を霧へと変化させた幻魔の姿は辺り一面にある霧のみでしか確認出来ず、それが幻覚なのか、本物の霧なのか普通の人間ではまず見破る事は出来ないだろう。そして、ここに居る二人の男は何の迷いも無く、幻覚ではないと判断していた。
「霧がまた濃くなってきたな」
「全身を霧へと変化する能力霧の拡散によるものでしょう。幻覚では無いことは理解出来てますよね?」
「あぁ、霧になった相手にどうやって攻撃をする?」
「問題はそこですね」
秋人は右手を構え、黒いオーラを放出させる。
その黒いオーラは悪霊の様なものへと変化すると秋人の手からは離れず、秋人の右手に添え留まり、蠢いていた。
「何か、気味が悪いな」
「良く言われます」
「……」
蠢き続ける悪霊の様な物を無言で見続ける廉に気がついた秋人は気を利かせる。
「何か?」
「……魔法じゃあないよな」
「ええ、能力ですよ。と、言っても能力不明と呼ばれる類いのものですが」
「……能力不明?」
「簡単に説明すると、今まで発見された能力とは違いものや説明の出来ない能力、能力の発動条件や、能力の有効範囲が定かではないのを能力不明と位置付けます。ですが、今まで発見された能力と少しだけの違いだけで能力不明となる場合もあるそうです」
「……じゃあ、この悪霊の様なものも何かの能力に似ているのか?」
「近いので言えば、魑魅魍魎と呼ばれる能力に近しいものがあるみたいですが、魑魅魍魎とは明らかに違う部分があるので、俺のこの能力は未だに能力不明のままです」
「……それじゃあ正式な能力名が存在してないのか?」
「ええ、それで困る事も無いので気にもしてなかったのですが……あの環境で産まれたのが、この能力と関係があるのかもしれません」
「あの環境?」
「……リーダーは山梨支部で生活を、そして俺はその山梨支部の外、無能力者達が住まう山梨支部の外で産まれました。俺が産まれた年は秋が訪れなかったそうです。それがどう関係しているのか、全く関係もしてないかもしれなせんが、無能力者達の間で産まれた俺は……」
「確か、無能力者同士で産まれた子供は」
「はい。100%無能力者の子供が産まれます。無能力者が片方の場合は50%になると言われています。魔法、能力、異能の組み合わせとなると、そのパーセントは変化します。無能力者しか居なかった山梨支部の外で俺が産まれた事自体、あり得ない事ですけど」
「……難しい事は分からねぇけど、能力を持って居たから俺達は会えたんだろう?」