第719話 母親の異変
廉の母親ー木山可憐の手には封じられた炎があった。ゼウスはそれを手に取ると、握り潰し自身の炎を取り戻す。
「母さん」
廉の言葉に耳を傾ける事無く、可憐はゼウスを見つめたまま動くことは無かった。
「……相変わらず、下らないやり口だな」
「ゼウス様には敵いませんよ」
ゼウスと何事もなく会話を続ける可憐に廉は駆け寄る。
「母さん」
迫り来る廉に可憐は右手から炎を放出させる。
その炎は忘却の業火の異能によるもので廉の記憶のみを焼いた。
「……ハーデス……これはなんの真似だ?」
可憐の魂を奪い操っていたハーデスは可憐の影から姿を現す。
「命令を受けましたので」
「……俺様のお気に入りに何をした?」
「記憶を消しただけです。何でも彼の異能は記憶を消せば弱体化出来るらしいです」
その瞬間、ゼウスは怒りで支配された。自身が認めた強者が弱者へとなった事への怒りはハーデスへと向けられる。ゼウスは右手に纏わせていた雷ごとハーデスへと殴り付ける。すると、肉体の無い骨のみのその体は砕けていた。骨がなくなった事によって、その場には黒いオーラが漂っていた。
その黒いオーラは可憐の影へと入り込み、可憐の体を再び支配する。
「危ないですよ。肉体がある状態で今の様な事をされれば死んでいましたよ」
ハーデスは支配した可憐の言葉でゼウスへと語り始める。
「言いたい事はそれだけか?……俺様の敵に回るなら、覚悟しておけ」
「誤解されている。全てはあのお方の指示のまま」
「……ならば、あいつに真意を聞くまでだ。木山廉は俺様のお気に入りだ。誰も手を出さない様に言っておけ」
「彼は神属性の神器持ちですよ。我々、管理する神の鉄の掟によって、殺す事は一部の例外を除いてはあり得ませんよ。神器の場合殺して奪う者が居なければ良いですが」
「……俺様はもう戻る。お前も離脱しろ」
「はい。後は深夜に来るチーム[カオス]に任せますよ」
「女どもが来て何をする?」
「あのお方に会われるなら、聞かれてはどうですか?」
「……そうする」
ゼウスは全身に雷を纏うと、一瞬で移動を開始した。
ハーデスは可憐の影から黒いオーラとして姿を現し、その場から離脱する。
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管理する神が所有する別空間内に訪れたゼウスは不思議そうな表情で辺りを見渡していた。
「……随分と変わったな」
前に来た時、何も無い殺風景な空間は現在、一つの街となっている事に驚いていた。
「どうかしましたか?」
ゼウスの目の前に金髪の男性が現れる。




