第712話 ゼウスの喜び
ゼウスは一瞬にして、エンマの元に移動すると、高らかに笑い始める。
「……良いねぇ。お前は良いよ。俺様を本気にさせる事の出来る数少ない人間だ。認めてやるよ」
「光栄だね、そんな事を言われるなんて」
「言うだけなら、なんとでも、なんでも言ってやる。でもなぁ。俺様を心の底から満足させる事が出来る人間はこの世に数える程しかいねぇよ」
「その内の一人になれる自信は無いが、やるべき事はさせて貰う」
「それで良い。お前が強ければ、俺様は満足する。お前が弱ければ、俺様はお前を殺すだけだ」
「死にたくは無いな。貴方が求める強さに至る強さを持つのか分かりませんが、全力でやらせて貰いますよ」
エンマは上半身のみ出現させている閻魔大王を動かし、右手でゼウスを叩き潰そうと動き始める。
迫り来る閻魔大王のその右手を見つめ、ゼウスは考えていた。
全身を雷と化したゼウスには物理的な攻撃は受けない体となっているにも関わらず、閻魔大王の一撃はゼウスの体を捉え、吹き飛ばしていた。
その事がゼウスは気がかりだった。
「……閻魔大王。相手にするには一筋縄ではいかなそうだな」
ゼウスは自身の頭上に雷を展開させ、電磁バリアを造り出す。
そんな電磁バリアを見てもエンマは攻撃を止める事は無く、そのまま、閻魔大王に攻撃を続行させていた。
閻魔大王はゼウスを叩き潰すため、電磁バリアへと振り下ろした右手を接触させる。すると、電磁バリアは防御の役割をする事は無く、閻魔大王の一撃でかき消され、その閻魔大王の一撃はゼウスへと襲いかかる。
エンマは閻魔大王の一撃を避けなかったゼウスのその行動が理解出来ずに、困惑していた。
避けそうと思えば避けられた攻撃を避けずに受ける理由に心当たりが無いからこそ、エンマは困惑をしていたのだ。
そんなエンマは驚愕する。
地面へと叩きつけていたゼウスから激しい雷撃によって、閻魔大王の右手は吹き飛ばされ、ゼウスは姿を現す。
「閻魔大王。普通の炎じゃあねぇな。雷と化した俺様に攻撃が当たっているのは……何故だ?」
「……閻魔大王は罪人を裁く存在だよ。罪人でなければ攻撃は出来ないが、罪人なら相手が誰であろうと、攻撃は当たる。姿が見えなくても、精神だけの存在でも、罪人なら問題無く攻撃を当てる事が出来る」
「……教えても良いのか?」
「構わないよ。知ったとしても閻魔大王の裁きから逃れる事は出来ない」
エンマは閻魔大王の全身から炎を更に放出させる。
それは今までとは威力の違う雷を見せたゼウスに対抗するかの様なその行動にゼウスは笑みを溢す。




