第693話 檜山家
廉と秋人のその戦いは廉の勝利で終わりを迎え、秋人達四人は木山家を後にしていた。秋人は敗北したものの、その顔は清々しかった。
「……俺は一度、山梨支部の外に出るよ」
秋人は三人に思いを告げる。
「兄貴俺も行くよ。二人とも行くだろ?」
雲雷のその言葉に庄司は戸惑いながらも答える。
「う、うん。行くよ」
三人が山梨支部の外へと行く決意を固めたものの、エンマの表情は優れなかった。仲間として行きたい気持ちはあるのだが、エンマには即答出来ない理由があった。
「悪いが、俺は行けない。俺は次のエンマとして檜山家からは離れる訳には行けない。山梨支部を根本から変えたい気持ちがあるが、その前に檜山家を変えたいんだ」
檜山家が今大変な状況である事を知っている雲雷は直ぐに返事をする。
「そうか。三人で行きましょう。兄貴」
雲雷は秋人と庄司の背を押しながら、走り出す。
それが雲雷なりの気の使いかただった。秋人に檜山家の事を尋ねない様にその場から離れる事によってそれを阻止させていた。
「雲雷。気を使わせたな」
エンマは山梨支部を離れていく三人の姿が見えなくまでその場で三人の姿を見ていたエンマは檜山家へと向かい歩き出す。
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檜山家。
檜山家は木山家と共に山梨支部の防衛局に関わっており、山梨支部は木山家と檜山家の力があってこそ、と言われる程この2つの家系の力が深く関わっていた。そんな檜山家は木山家の向かいの屋敷で生活していた。
檜山家は五十人を越える人間が生活しており、皆、炎系統の能力者でもあった。
「兄貴」
檜山家に戻ったエンマを出迎えたのは、ずっと待っていたと思われるエンマの弟の仁だった。赤髪のその少年は紅蓮の炎の能力者でもある彼は廉とは同い年であり、良きライバルでもあった。
「なんだ?仁」
「エンマの名は俺に継がせてくれよ」
「廉がゲンマの名を襲名するからか?」
「そうだ。あいつには負けられねぇ」
「……名前だけで実力が変化するのか?今のお前に必要なのは名や地位や名誉ではなく、純正な力の筈だ。廉が少しぐらい立派な名になったからと言って実力が変わる訳ではない。それはお前もだ。エンマの名は襲名してもお前はお前だ。お前は仁のままで越えれば良い」
「それじゃまるで俺は廉よりも劣っているって聞こえるぞ。兄貴」
「今はそうだ。これからは俺にも分からねぇがな」
「……俺は分かる。俺は直ぐにでも廉を越える。行ってくる」
仁は慌てて靴を履くと、勢い良く外へと飛び出していく。
 




