第665話 運命極論
運命極論は現在に確定している現状を切りつける事によって、その現状を別のものへと書き換える事の出来る神器である。
そんな剣を握る恋歌は動こうとしなかった。
それは、拳魔の体中から発せられる威圧的なオーラによるものがあったからだ。恋歌は日本に置いて、日本五大剣客の一人であり、その剣の実力は日本でもトップクラスである。そんな恋歌だが、恋歌の経験上、拳魔のような得体の知れない相手との戦闘はこれが初めてである。
(全く隙が無い。しかし、拳魔も私が動かなければ、動くつもりも無さそうね。……ここは私が動くしかない)
拳魔への攻撃を決意した恋歌は拳魔の元まで走り込むと、運命極論を振るう。しかし、拳魔が避ける事はなく、運命極論に当たってしまう。
(……なんて硬い鱗なの。こっちの腕がやられる。でも、運命極論で切りつける事が出来た。運命極論は生命に干渉は出来ないけど、拳魔の現状の防御力を改変され、防御力を極限まで低下させる)
運命極論によって、極限まで防御力が低下した拳魔だが、恋歌は一度距離を取る。
(……どうして、攻撃しないの?何がある)
拳魔が何故動かないのか、それはどれだけ恋歌が考えても答の出るものではなかった。恋歌は拳魔に向け、連続で切りつける。恋歌の息が切れるまで切りつけたが、拳魔が動く事は無い。それを繰り返していた恋歌には理解出来ていた。切りつける度に、拳魔の防御力が上がっていることに
(……私の運命極論が作用していない。それどころか、拳魔の防御力が上がっている。それだけじゃあ無い。そう感じるのは私の気のせい?)
その疑問もあるため、恋歌は拳魔との距離を取る。
恋歌の攻撃が無くなった事によって、拳魔は動き出す。
拳魔は地面に右拳を勢い良く殴り付ける。
それによって、固定魔法によって、際切られた見えない壁も恋歌も、エマも固定魔法で動けなくなったヘラクレスの全ては吹き飛ばされる。
「……突然、なに?」
拳魔のその攻撃で、咄嗟に固定魔法で防御したエマは未だに地面に右拳を置く、拳魔の姿を見る。
「……拳魔って言うだけあって、その拳がご自慢の様ね」
拳魔へと話しかけたエマだが、拳魔が返事をすることはなかった。
(……こんなに動かないものなの?)
エマは吹き飛ばされた恋歌の元へと移動を始める。
エマは倒れていた恋歌の体を起こす。
「……少し、聞いても良い?」
「言いたい事は分かってるわ。拳魔は多分、攻撃を受けた分、強化されるみたい。だからこそ、攻撃を受けるのを待っているみたい」




