第664話 拳魔
黒色に染まったその巨体は五メートルを越え、特に手に関しては、その異常な所が見てとれる。
その手は何があろうが開く事は無く、その手は決して破壊される事は無い。
「……俺と拳魔が居れば、この場は制圧出来る。お前らはさっさと行け」
チーム[ヴァルハラ]のメンバーである金髪で筋肉質なその男、ヘラクレス・リックマンは堂々と告げる。
「ベルセルク。ここはヘラクレスに任せよう」
チーム[ヴァルハラ]の副リーダーである黒髪に赤い瞳のジークフリード・アンサンブルは地下へと入る事を進める。
そんなジークフリードの指示にチーム[ヴァルハラ]のリーダーであるベルセルク・フルベルクも同調する。
「そうだな。先を急ごう」
リーダーであるベルセルクのその言葉によって、ヘラクレスと拳魔以外の全員は地下へと入っていく。
「……大丈夫なんですか?」
恋歌はあっさりと、チーム[ヴァルハラ]を通したエマに確認を取る。
「……ここで全員を足止めなんて無理よ。チーム[ヴァルハラ]が地下に向かってくれて助かったわ」
「そうですね。でも、ここに残った二人は厄介ですよ」
「そうね。拳魔の相手は頼むわ」
エマはそれと同時に黒魔術:固定魔法を発動させる。
それによって、ヘラクレスと拳魔を分断させる事に成功していた。
ヘラクレスは目に見えないそれを触れる。
「固定魔法か、中々の強度だ。俺は固定魔法の女を殺す。お前はその女を殺せ」
ヘラクレスのその言葉に拳魔は頷く。
拳魔には、口が無い。正確には有るのだが、その機能は果たされる事は無く、固められている。
拳魔は一度頷くと、拳を前に突き出し、戦闘体勢を整える。
「やる気だな」
ヘラクレスはそんな拳魔を見て、エマへと向かい歩き始める。
「それじゃ、始めようか?」
ヘラクレスは勢い良く走り込み、エマへと接近する。
しかし、直ぐにヘラクレスは画面に強い衝撃を受ける。
倒れ込んだヘラクレスは直ぐにそれが固定魔法によるものだと理解する。
「やってくれるな。黙視も出来ない固定魔法が使えるなんて」
「……それが私の自慢でね」
エマはヘラクレスの全身に魔力を送り固定させる。
「……もう動けないわよ」
ヘラクレスの動きを封じたエマはヘラクレスに近づくその頃、恋歌と拳魔の戦いが始まろうとしていた。
恋歌は能力を発動させ、運命極論の剣を造り出す。
(……不気味ね。表情も動かず、何を考えているのかも分からない。でも、やることは変わらない)
恋歌は拳魔に向かい走り出す。




