第647話 医者の判断
「はい。それよりも見て貰いたい患者が居るんです」
紫音のその言葉を受け、はるみは廉が背負う舞がその患者だと言う事を見抜く。はるみは廉の元へと駆け寄ると、背負われている舞の表情を見つめる。
「……それじゃあ、ベッドまで運んで貰っても良いかな?」
「はい!」
廉は、はるみの後に続き、足を進める。
「……じゃあ、そこのベッドに寝かせて」
「はい」
それははるみの指示通り、ベッドに舞を横たわらせる。
「……じゃあ、見るわね」
はるみは復活させし神の異能力者であるが、医師としても活躍する女医である。
「……復活させし神で完治させるわ」
はるみは舞の体に手を置く。
復活させし神ははるみが触れた相手の体を全治させる事が出来る異能である。はるみが触れた為、舞の体も全治する。
「……体は全治したわ」
「それじゃ、舞はもう大丈夫なんですね?」
廉は顔色の良くなった舞を見て、はるみに確認を取る。
はるみは暫く考え込むと、答えを出す。
「……ええ、体だけはね」
「どうゆうことですか?」
「そのままの意味よ。彼女の体だけは全治したの。復活させし神は触れた相手を全治させるだけでなく、触れた相手の体の状態を感じる事も出来るわ。彼女……記憶喪失よ」
「記憶喪失?」
「一部だけの記憶喪失ではなく、全て失っているみたいなの」
「何で記憶を?」
「分からないわ。全て記憶を失った彼女は生まれたての状態ね。赤子の様に泣くことは無いけど、今の彼女は体だけ成長した赤子ね」
「何で……どうやれば、元に戻るんですか?」
「……医師の立場から言わせて貰うけど、彼女の治療は出来ないわね」
「何でですか?」
「……これは、特殊な力によって、記憶を全て消されているのよ。その記憶を元に戻す方法があるなら、その力で彼女から記憶を奪った者の意識を断つ事が出来るなら、彼女の記憶は元に戻るわ」
「……本当ですか?」
「ええ、本当よ。私の出来る事はそれだけよ。それだけで、彼女から記憶を奪った者が誰かは分からないわ」
「……じゃあ、どうすれば」
「彼女の身柄は私が責任を取って、預かるわ」
「でもー」
「貴方がここに居て彼女の記憶は戻るの?」
「貴方は貴方が成すべき事をしなさい」
「俺が成すべき事?……舞をお願いします。犯人は俺が見つけて、気絶させます」
「ええ、それまで彼女の事は私に任せなさい」
「はい。お願いします!」
廉は慌てて、病室の扉に駆け寄る。
「紫音。一緒に探そうぜ!」
「うん!」
紫音ははるみに一度会釈すると、廉の後に続き走り出す。




