第641話 失われていく記憶
天舞音が投げ捨てた手鏡は破壊されたが、そこに写っていた舞には何の変化もない。それは舞としても、戸惑いだった。桜を写した鏡が破壊された時は、そこに写った桜も破壊されていたからだ。
「何を破壊したの?」
「知りたい?」
「だから、聞いているの」
「……記憶!」
「ふざけないで、私は記憶なんて、失っていない」
「さっきの話覚えている?」
「……私と会ったのが、偶然って話でしょ?」
「そう。それでね。貴女の仲間を姿を手鏡に写してね!私の脳に直接入れ込み貴女の居場所を知ったんだけど、その仲間の事を覚えているかしら?」
「……廉?」
「佐倉紫音。知っているでしょ?」
「佐倉紫音?……誰?」
舞が戸惑っていると、天舞音は手鏡を造り出し、困惑している舞の姿を手鏡に写す。そして、直ぐ様その手鏡を地面に投げ捨て、手鏡を破壊する。
「……貴女にはもうチーム[アブノーマル]の記憶は無い。そんな貴女には何が残るのかしら?」
突然の頭痛に舞は何も答える事は出来ず、項垂れる様にして倒れ込む。
「……次は、家族ね」
天舞音は手鏡を二枚造り出すと、焦らす様に破壊を遅らせた。
倒れ込んでいた舞はゆっくり顔を上げ、天舞音を見つめる。
「止めて」
舞は覚えては居ないが、自身の大切な記憶が消えた事によって、天舞音の異能の力を知った舞は自身が最も大事にしている家族の記憶が失われるのは、今の舞の精神ではどうなるのか舞も分からなかった。
「……父親と母親。同時に失うと良いわ」
天舞音は二枚の手鏡を無造作に投げ、破壊される。
その瞬間、紅桜は破壊され大量の桜が舞の体から止めどなく放出を続けていた。この状況は天舞音にとっても予想外な出来事であった。
「何が起きているの?」
大量に放出を続ける桜は天舞音に襲いかかる事は無かったが、増え続ける桜の量の多さから、徐々に天舞音の元まで接近していた。
「……この原因を突き止めないとね」
天舞音は一度消した鏡の国を再びこの空間に造り出す。
大量に放出を続けていた桜は辺りにある鏡張りの建造物に触れると、鏡の中へと入り込んでいく。
地面までもが、鏡となっている為、大量の桜に囲まれた舞の姿を天舞音自身が捉える事は出来ないものの、地面に写った鏡を利用して、天舞音は舞の姿が写った鏡を手にする。
(川上舞の居た地面の鏡を鏡を伝って手にしたけど、これは一度きりね)
舞の倒れ込んだ地面から写った姿を写した鏡を天舞音は頭に入れ込んでいく。それによって、天舞音は舞の情報を手に入れた。




