第618話桜井伊吹(さくらいいぶき)
日本全国を覆い尽くす大量の肉体の塊は兵庫支部全体を包み込むのには時間はかからなかった。
そんな兵庫支部では防衛局よりも早く、一人の男が奮闘していた。
その男は全身から様々な色のオーラを放出させながら戦闘していた。
その銀髪の男ー兵庫支部高等部一年特殊クラス桜井伊吹は能力不明と診断された能力者である。
能力不明は今までに確認されたかった能力の事をそう言う。伊吹の能力は自身の感情によって、色の異なるオーラを体中から放ち、戦闘を行うものである。
「……中々、なるなぁ。ただの肉じゃあねぇな。でもよ。俺の能力もただの能力じゃねぇ」
伊吹は迫り来る肉体の塊を目の前にしても、避ける事なく、右拳を握る。
その右拳からは赤いオーラは勢い良く、放出していた。
「……この一撃、この滾る深紅の赤。止まれねぇぜ!俺がそう思ったんだ!そう言ったんだ!だったら、そうなるさ。俺の能力は俺の感情が高ぶれば高ぶる程、威力を増す。この俺の胸の高まり、肉体の塊……お前を消滅するまで止まる事はねぇ」
伊吹は右拳を前方に向けて殴り付ける。
それと同時、赤いオーラは巨大な肉体の塊へ激突する。その瞬間、伊吹の前方の全ては消滅した。巨大な肉体の塊は勿論だが、建物等も吹き飛ばしていた。
「……やり過ぎたな。まっしょうがない、しょうがない!」
自身の感情によって、その威力を増す伊吹の攻撃力は感情を押さえる事によって、制御出来るが、伊吹にはそれを統べる事が出来る程の技量な無い。
伊吹は一度高まった感情を押さえる事をせずに、その感情を更に高めようと奮闘する男であり、一度倒すと決めた相手が倒せない程、倒したいと言う感情を高め続ける様な男である。
「また、派手にやったな。伊吹」
「……兄貴かよ。また、文句か?」
伊吹の目の前に銀髪の男性が現れる。その男のこそ兵庫支部防衛局局長を務める桜井利明が現れる。兄弟である二人は決して、仲が悪い訳では無い。仲は良いほうと言える。そんな二人だが、兄である利明は防衛局局長として動くときには兄弟と言う概念を考慮することはなく、局長としてやるべき事を優先させる男である。
「……お前の能力的にこうなる事は分かっていたが……俺達防衛局よりも先に動けるとは、思わなかったよ」
「嘘つくなよ。兄貴だったら、分かっていた筈だ」
「……そうだな。どうだ?そろそろ、防衛局に来ないか?高校に通いながらも、防衛局に席を置くものは多いぞ」
「何度も断ってるだろ?」
「……残念だよ。お前の力は個ではなく、全のもとで振るわれるべきものだと思ったんだがな」




