第615話松川春菊(まつかわしゅんぎく)
山梨支部防衛局内を出た春菊と杏美は空を覆い尽くす大量の肉体の塊を目にする。
「日本中……これかよ」
「……その様ですよ。でも各支部は対処を行っているので、時間の問題かも?」
「……俺は山梨支部だけ守るぜ。それ以外は流石にきついぜ」
「山梨支部の上層部からの指示も山梨支部のみとなっているので、良いのでは?」
「じゃあ、初めるか」
春菊は腰に携えていた炎極、雷極を両手につかみ取る。
「いくぞ!」
右手に握る炎極、左手に握る雷極は逆手に持つと、春菊はコマの様に高速で回転する。
「双剣乱舞!」
春菊のその叫びと共に炎極からは激しい炎、雷極からは激しい雷が放出され、空を覆っていた大量の肉体の塊に接触すると、大量の肉体の塊を真っ二つに引き裂く。
それを終えた春菊は炎極と雷極を鞘に納める。
「……我妻……地は裂けたか?」
「はい!」
「海もか?」
「山梨支部に海はありません」
「空は裂けたか?」
「いえ、でも、大量の肉体の塊は裂けました」
「……俺の双剣乱舞は何が違う?」
「川上玲奈の双剣乱舞は炎や雷を使用していません。威力は貴方が上です」
「……玲奈さんの双剣乱舞は地を裂き、海を裂き、空を裂いた。俺はまだあの人を越えられないのか?」
「……川上玲奈の強さと、松川春菊の強さは別物ですよ」
「お前の目にはそう見えるか?」
春菊のその問いに杏美は春菊が今まで見た事の無い笑顔で答える。
「はい!」
「……帰るか」
「はい」
双剣乱舞を一度のみ放った春菊と杏美は何も確認する事なく、山梨支部防衛局内へと戻っていく。
春菊の放った双剣乱舞は空を覆い尽くす大量の肉体の塊を真っ二つにした後、春菊の能力である全部伝染によって、春菊の攻撃は伝染していき、空を覆い尽くす大量の肉体の塊を千切りの様に切断されていく。
それは大量の肉体の塊が完全に消滅するまで続く事になる。
それを理解しているからこそ、二人は何の確認もせずに戻る行動を取った。
「……ここは?」
山梨支部防衛局内に入った瞬間、春菊の身に突然起こったその出来事に春菊自身も直ぐに理解することは出来なかった。
春菊は直ぐに、回りを見渡す。今まで見慣れた防衛局内ではなく、光輝く、その空間はさっきまで居た杏美の姿は無い。広く、高さもあるその空間は春菊の他に金髪で見た目は確実に日本人では無いであろう、少女が立ち尽くしていた。
「誰だ?」
春菊は金髪の少女に尋ねる。
少女は春菊のその問いに一度微笑むと、答え出す。
「私はオリビア」




