第613話 山梨支部防衛機関
能力者育成機関は東京本部を初め、各都道府県に支部を設けている。
その中でも、山梨支部の治安は防衛局に委ねられているものの、肝心な山梨支部防衛局はやる気の無い者の集まりとして知られていた。
それは皆がやる気が無い訳では無い。山梨支部防衛局局長である松川春菊の能力の影響によるものである。
春菊の能力は全部伝染が影響している。
全部伝染は春菊の感情や気分等が回りに伝染していく。それ以外にも、攻撃を当てると、その痛みが徐々に伝染していき、最終的には体中への痛みへと変化することになる。
この能力によって、山梨支部防衛局の内部は春菊の気分や感情やテンションが伝染しており、その影響を受けてしまう事で皆やる気が失くなっているのである。
それは現在進行形の話である。
東京本部を中心として、巨大な肉体の塊は東京本部に留まる事なく、日本中を包む程であった。
勿論、山梨支部も巨大な肉体の塊の進行を受けていた。
「局長。山梨支部に気味が悪い?見るに堪えない?薄気味悪い?……えっと、なんだっけ?」
蠢きながら、山梨支部を動き続ける巨大な肉体の塊を説明しようと青髪の女性は頭を悩ませていた。
「……相変わらず、言いたい事を纏められない奴だな」
「まぁ、それも私の長所……もしかしたら、欠点?弱点?短所?……どれでしょ?」
「ただの馬鹿だ!」
「酷いですね。上司だからって、訴えますよ。パワハラで……モラハラ?セクハラ?」
「セクハラだけはねぇよ!……で、何の用だ?副局長であるお前が来たんだ。最初に言っていた事で何かあったんだろ?」
春菊のその言葉を受け、山梨支部防衛局副局長である我妻杏美は思い出したように口に出す。
「忘れてました。……嫌、失念した?度忘れ?」
「どれでも良い。で、なんだ? 」
「外に出れば、すぐに理解?分かる?知ることが出来る?」
「そうかい。では、外に行こう」
「やる気になりましたね」
「……それがなんだ?」
「やる気の無い貴方?あんた?お前?君?彼?貴様?」
「局長と呼べ!」
「はい!局長のそのやる気は防衛局内全体に伝染していきます」
「……そうだな。だが、対処するのは俺とお前だけだ」
「……それが良いでしょう」
春菊のその言葉に杏美は何の反論もすることなく、了承する。
春菊の能力、全部伝染は春菊の意思に関わらず、常に発動をしている。例えば、数人居る状況で、一人が怪我をすれば、その痛みはその場に居る全員に伝染してしまう。そんな中で影響を受けないのは、山梨支部防衛局内では春菊、杏美だけである。




