第603話 本気の兄弟
「……僕が生きている限り、氷。お前を一人にはしない」
「だから、お前を殺す!」
「死ねないよ。お前を天涯孤独の身にするわけには行かない。いずれその時は来るだろうけど、今はその時では無い。僕達が今するべき事は父さんと母さんの墓参りをすることだ!」
「……そこには、何も無い」
「確かに、父さんと母さんが存在している訳では無い。それでも……」
「良いぜ。俺に勝てたら、何処でも付いていってやるよ」
「……その言葉忘れるなよ」
「あぁ。約束は守るぜ」
氷は母親を凍りつかせていたオリジナルの氷を取り戻した事によって、オリジナルの氷竜を出せる上限の数が増えた事から合計で十体のオリジナルの氷竜を一瞬にして造り上げる。
「……紫音。覚醒を使ったら、どうだ?」
「そうだね。母さんが居なくなった事によって、氷神の花畑の全てを得たよ」
「だったら、さっさと覚醒を使え。お前なら出来る筈だ」
「……氷神の花畑と共に母さんの記憶が入り込んできたよ」
「……記憶?」
「氷は覚えているか母さんの好きな花を!」
紫音は全身から冷気を放出させると、その場の部屋や廊下を凍らせると、とある氷で造られた花が出現する。
「……蓮の花」
氷は氷によって造られた蓮の花を見ると共に母親が好きな花を思い出していた。
「……一度二人で見たよね。母さんの氷神の花畑が覚醒し、部屋中を氷の蓮で埋め尽くされたこの氷竜神の蓮造花を」
「……覚醒まで、母さんと同じだと?」
「氷は……」
「俺は違う!お前と一緒にするなぁ。俺は父さんの覚醒とは違う!お前らとは違うんだよ」
「そうだろうね。血の繋がりがあっても、どれだけ仲が良くても、全く同じ人間なんて居ないよ。違って良いんだよ。それが氷なんだよ。僕はそんな氷だからこそ、誇れるんだ!」
「誇る?何を?」
「兄である自分を!そして、何よりも氷が弟と言う事実を!」
氷が反論を始めようと口を開こうとしたその瞬間、氷は突然眠気に襲われる。
「そう、だった……なぁ」
「そうだよ。母さんの部屋に氷の蓮の花があると僕達は気がつくと母さんの膝元に寝ていた。氷竜神の蓮造花によって、造られた蓮の花は全てのエネルギーを吸収する」
紫音のその言葉通り、氷の周りに出現していたオリジナルの氷竜は徐々に小さくなっていく。
それに加え、氷の体力等も吸収されていた。
(そうだったなぁ。母さんはいつもその氷の蓮の花で俺たちを寝かしつけていたなぁ)
薄れていく意識の中、氷は母親との記憶が甦る。




