第593話 桜と氷竜神
無数の氷竜をその場で蠢かせている氷に対して、舞は右手に握り締めていた紅桜を向ける。
「……その剣は普通の剣では無いなぁ」
その剣の刀身から溢れ出すさくら色のオーラが放たれている事から、氷は普通の剣で無いその事実を言い当てる。
そんな舞は紅桜を一振りして、大量の桜の花びらを出現させる。
「……桜を造る剣か……それで、どこまでやれるのか見せて貰おうか」
舞は紅桜を氷をめがけ振るう。
距離があり、届く訳もないが、大量の桜の花びらが氷の元へと向かって動き出す。
「……俺の異能を見て、接近戦を選んだか」
剣を持ちながらも、近づく様子も無く、桜の花びらのみで攻撃を仕掛ける舞のその行動を見て、氷は不適な笑みを浮かべる。
(無駄だぁ)
氷は両手から放たれている冷気を氷竜へと変化させた二体の氷竜を氷の地面へと解き放つ。
氷の両手から放たれた二体の氷竜は氷の地面を切断し、地中へと移動する。
その間も舞が放った桜の花びらは氷にめがけ移動していた。氷は自身の周りを蠢いている無数の氷竜を自身の周りを取り囲む様に移動させ、ドーム状へと動かしていた。
これによって、氷は身動きが取れなくなったものの、氷竜のその性質上、触れた物を切断させ、切断箇所を氷で繋ぎ止める事が出来る事と、破壊不能な氷を使用している事から、その防御力は凄まじく、舞が破壊するにはかなりの時間を費やす事になる。
しかし、氷にとっては時間との勝負と言うよりも地中居る二体の氷竜に気づかれるかの問題だった。
地中に居る二体の氷竜は舞の足元の氷に覆われた地面を切断して、その姿を現す。
その瞬間、舞は地中から姿を現した氷竜を避けようと、体を動かすものの、氷竜のその動きに対応が間に合わず、左足首と右肩が切断され、その箇所は氷によって、繋ぎ止められる。
その事実を無数の氷竜に囲まれ、ドーム状となっている内部に居る氷は理解した。
「終わったなぁ」
ドーム状に取り囲ませていた氷竜は消滅する。
「大量の桜の花びらは……地面に落ちているなぁ。それにその状態ではもう俺とは戦えねぇだろう?」
「……まだ、私はやれる!」
「そうか。それじゃ、頑張れよ」
氷の全身から放たれる冷気は五体の氷竜へと変化する。
五体の氷竜は真っ直ぐ、舞の元へと向かっていく。
そんな氷竜は突然、出現した氷の壁に衝突する。
「……切断が自慢な氷竜を衝突と共に砕くか。その氷はかなりの強度みたいだなぁ」
「そうはそうだろう。俺の異能である氷の金剛石で造られた氷の強度はダイヤモンドと同じだからな」
 




