第576話 湊斗の決断
六三四達が氷の城の内部に侵入を果たしたその頃、柚子を抱き抱えた湊斗はとある扉の目の前に居た。
そんな湊斗を招き入れる様にして、氷の扉はゆっくりと開く。
湊斗は部屋に入る事はせずに目の前に広がるその光景を見つめていた。
その部屋は特に何も無い。唯一あるのは氷で出来た椅子のみで、他にあるのは部屋の半分を占めている氷付けにされた女性の存在だ。つまり、この部屋はその氷付けにされた女性の為だけに設けられた部屋と言える。
そんな部屋を初めて目にした湊斗は何も出来ずに立ち尽くしていた。
「……何か、用があるのだろ?」
中々部屋に入って来ない湊斗に氷の椅子に腰かけるその男は不適な笑みを浮かべながら告げる。
そんな男に話しかけられた事によって、湊斗は我に返る。
「……この部屋は誰にも見せないと思っていました」
「チーム[ブリザード]のメンバーなら、問題無いさ」
「……頼みたい事があります」
「なんだ?」
「柚子様が怪我を負ってしまいました」
「……それで、病院に連れて行きたいと?」
「はい!」
「構わない。後の事は全て俺がやろう」
「……」
許可を出したのにも関わらず、その場から離れる様子の無い湊斗にその男は口を開く。
「どうした?」
「この部屋を開けたのも、私を行かせようとするのも、貴方がするとは思えない行動だったので」
「……簡単な話だ。俺はここで待つだけだ」
「誰を待っているのですか?」
「……弱い兄だ」
「佐倉紫音ですか?」
「……違う!氷川紫音だ!」
「氷川……それを捨て去り、佐倉家の者として過ごす彼はー」
「黙れ!」
湊斗の言葉をかき消す様にして、椅子に腰かける男の声が響き渡る。
「……一体、氷川家に何があったのですか?」
「……さっさと行け!お前がここに留まる理由はねぇだろ?」
「柚子様を預けたら、戻ってきます」
「必要ねぇ。側に居てやれ」
「……了解致しました」
湊斗はどこか納得し切れないまま、その場から離れていく。
一人残されたチーム[ブリザード]のリーダーである氷川氷は氷付けにされている女性の傍らに一緒に氷付けにされている写真を見つめる。
その写真には、幼い氷と幼い紫音を抱き抱える母に少し離れた場所に立ち尽くす父そんな写真を見つめた氷はため息を溢す。
「……氷神の花畑が何故狙われる。何故、紫音ではなく、母さんを狙う。全ては紫音!お前にもう一度会えば分かる事だ」
氷は同じ異能を持つ母と紫音だが、何故狙われるのが母のみなのかとゆう疑問を抱き続けた氷のその疑問の全ては紫音の存在が大きく関わっていると判断した氷は青森支部に来ている紫音を目指す為、椅子から立ち上がる。
 




