第56話 荒川玲愛
私ー荒川玲愛はこの世界を憎み、恨み、否定する。
何故なら、最初に否定したのはこの世界に住む者達なんだから
この世界で最初に否定したのは父親だった。
「玲愛、幾つになった」
出張から帰って来た、父は不適な笑みで私の髪を撫でながら聞いてきた。
母は寝室で寝ている。今まで私を守ってくれていた母は動かない。寝室で二度と動かないだろう。父が殺した。私は母の悲鳴を初めて聞いた。
だけど、体は動かなかった。隣に居たけど動けなかった。だけど、体の何かが動いたのをこの時初めて理解した。弱い母から産まれた私は弱い人間だと考えていた。だけど弱い私じゃあ父に弄ばれる。私に力があれば……
「聞いているのか?」
父は私の髪を鷲掴みにする。
母が今朝も昨日も毎日私の自慢の髪をとかしてくれた髪を無造作にためらいも無く掴む。
まただ。私の中で何かがうごめいている。
ずっと動いている。
父は私の肩に手を置く。
今までの父なら大したことでは無いことだ。
だけど、今は虫酸が走る。吐き気がする。
早く父の手を退けたい。
「父さんを否定するのか?」
父は私をベッドに倒すと怒鳴り付ける。
隣には母も居る。
嫌、母は居ない。私の知る父も居ない。
そして私の知らない私が蠢く。
「母さんが居なくなっちゃった。お前だけだよ。俺の味方は」
父は私の耳元で囁いた。
父は私の耳を舐めた。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い…………………………
「気持ち悪いんだよ」
私のその一言で父は天井まで吹き飛ばされた。
私の体の周りに黒い霧、オーラに包まれていた。
この感覚、力が溢れる。
「悪魔め、お前は母さんと同じ悪魔だ」
私の母は悪魔属性の異能力者。ただ、それだけ。父はそれだけで寝ていた母を殺した。だったら私がこの父を殺しても良いじゃない。
「私は貴方を殺す」
私は横に寝ている母の胸に手を当てる。
私のお気に入りのペガサスのぬいぐるみを手に持つ。
「……何をしている?」
父が何かを言った。しかし私には関係の無いことだ。
ペガサスのぬいぐるみを母の胸に置く。
「ひいいぃぃぃ、悪魔め」
母はペガサスのぬいぐるみに吸い込まれた。
私の能力は知っていた。だけど平和な毎日に使う必要もない。
初めてだけど上手くいった。
これで母は永遠に私と一緒……父は……もういらない。
「影?」
月明かりに照らされた寝室で私は復讐を遂げる。
影は手の形になっていく。
「玲愛、父さんを殺すつもりか?」
「父さんって誰?」
「玲……愛……?」
影の形をした手は父の首を強く絞めた。
父はバタバタと暴れる。
そんな父を置いて私はその部屋を後にした。




