第555話 鎮静の水
「氷雪魔神……72柱シリーズの悪魔か」
湊斗の上空に居る亮太は湊斗のその言葉を聞き逃す事なく、聞いていた亮太はそれが72柱シリーズの悪魔の一体であることを正確に見抜く。
「……氷を纏い、体を強化したのは間違い。私の完全模倣なら、貴女のコピーを複数体造り、襲わせる事も出来る」
優菜のその発言は亮太も期待していた。優菜の完全模倣は黙視した物を完全な形で再現する能力であり、人間や、相手の行動等のコピーが出来る優菜は氷を前進に纏った湊斗を複数造れば、湊斗も対処に困ることは確実だろう。
「……何で、完全模倣が発動しないの?」
能力を発動させた筈の優菜だったが、能力が発動しない現状に戸惑いを隠せずに居た。
「残念だけど、氷雪魔神は魔神として、相手の干渉を受けないんだよ。精神系統や間接的な攻撃、魔属性に耐性を得た私には、もう貴女のコピーは受け付けませんよ」
「……そんな」
「……最初は、私の能力のコピーかと思いましたが、私の能力に関する攻撃が無いことから、見た物のみ、みたいですね」
完全模倣の能力のからくりを正確に言われた優菜は何も言えずに居た。
「……申し訳ないですが、ここで貴女には退場してもらいます」
湊斗は右手を優菜に向けると、大量の水を放出させる。
上空に居た亮太は飛行が出来ず、防御の出来ない優菜を助ける為、向かうが、水の勢いの方が亮太のスピードよりも早く、優菜の元へと辿り着いてしまう。水に呑み込まれた優菜は意識が朦朧とする。その瞬間、複数の幻覚が優菜を襲う。意識が朦朧としていた優菜が幻覚に抗う事など出来る筈も無く、複数の幻覚をもろに食らう。
それは、水分を奪われ、倒れ込んでいた厚美も優菜と同じく、意識が朦朧とし、幻覚を食らってしまう。
優菜を助ける事が間に合わなかった亮太は優菜を抱き抱える。
「……また、俺は何も守れないのかよ」
亮太は再び仲間を守れなかった事実に苛立ちながらも、抱き抱えた優菜を厚美の隣に寝かせると、ドーム状の竜に鱗を造りだし、二人の身を守れる様にすると、氷の上に溢れる水に足を取られながらも、ゆっくりと湊斗のもとへと歩いていく。
「……俺は負けねぇ。勝たせて貰うぞ!」
「出来るなら、すると良いさ。しかし、私にも譲れないものがあります」
「譲れないもの?」
「……佐倉家の人間として、それ以前に佐倉家を守る立場の者として私には敗けは許されないのです」
「家の事なんざ、知らねぇよ。家の問題をこの場に持ち出すなよ。ここに居るのはただの二人の男だけだ」




