第535話 奪われた力
倒れ込む碧人に厚美は駆け寄る。
「……氷の魔神で碧人の異能力を一部奪ったのね」
「その通りですよ。これで、碧人は氷の金剛石の異能を満足に扱う事は出来ない」
「……私の弟にそんな事をして、ただで済むと思う?」
「……お怒りの貴女たまともに戦う事は避けますよ」
その言葉を残した茂人は逃走を始める。
厚美は茂人を追う事なく、碧人を抱き抱え、茂人が走って逃げた逆方向へと歩きだす。
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「大丈夫?」
目を覚ました碧人の耳に届いたのは姉のその一言だった。
体を起こした碧人はいつもとは違う体の異変に気がつく。
「……俺は異能を失ったのか?」
「……氷の魔神は氷を封印することが出来る魔道具よ。能力、異能の一部も封印出来るみたいね」
「一部って事は、全てが封印された訳では無いんだな」
「ええ、けど一部でも奪われている限り覚醒はものには出来ないわよ」
「……そうか。それであのまま逃げられたのか?」
「数人が後を追っているわ」
「だとすると、逃げられたな」
「……認めたく無いけどね」
「あいつに関してはいずれ俺がやる」
氷の金剛石の力を一部失っても、東京本部中等部内で優秀な成績を維持し続けていた。
それは氷の金剛石の強度が圧倒的だったからだ。
しかし、そんな碧人の人生を大きく揺るがす男が転入してくる。
その転入生として来た檜山仁との出会いによって、碧人の人生は大きく変化する。
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そして、現在。
「どうかしたか?」
「……何でもない……ただ昔を思い返していただけだ」
「……奇遇だな」
「……本当になぁ」
「この氷を造った奴には勝てるのか?」
「何があっても勝つ!」
その碧人の覚悟を感じ取り、仁はそれ以上碧人に尋ねる事はなかった。
「かなり時間が経過しているけど、まだ来ないのか?」
時間がかなり経過して来ない事から五十嵐京介は痺れを切らし、尋ねる。
「……もう来るだろ」
「敵側には此方の情報がどう伝わっているだ?」
「あいつは氷の魔鏡によって、氷を経由して俺達の存在を確認している。時間がかかっているのは、転移魔法も、移動系統の能力、異能を扱える者があいつ、及びその仲間に無いからだ」
「……つまり、相手の移動手段は自身の足のみって事?」
「あぁ、来る前に伝えておく。あいつがどんな仲間を連れてくるかは、分からないが、あいつの能力は氷の蒼玉。強度もあるが、注意するのはその速度だ」
「……随分と詳しいんだね」
「昔、あいつは俺の師匠だったからな」




