第519話楠木村正と斉木正宗
楠木は九十九の元を離れ、仁の斜め後方にいた斉木の元へと足を動かしていく。
「久しぶりだな。正宗」
「あぁ、久しぶりですね」
「正宗。お前の体内に入れられている名殺神剣を返して、欲しいと斉木家の人間が言っていたぞ」
「……返す事は出来ない。そもそも、望んでもいなかった私に儀式を施し、神器の体内に入れ、人工能力者にしたのは斉木家の者だ」
「確かに、同情するぜ。俺も神器を入れられた人工能力者だからな」
「貴方がチーム[ブレイド]に入るとは思わなかったですよ」
「……あの頃からは考えられないか?」
「ええ。貴方は誰かの下に付く様な人では無かったですから」
「俺も変わったって事だ」
「……そうですか」
「正宗。一つ聞くぞ。あの頃の様に裏切らないだろうな?」
「あの頃の様に貴方が勝手な事をしなければ」
「あの頃はお互いに無知だったな」
「では、お互いに成長している事を期待しましょう」
「……あぁ、今回は期待しているよ。お前には」
楠木は九十九の元へと戻ると、九十九を仁から引き離し、少し離れた場所に移動させた。
そんな能力者育成機関高等部の一年生達の目の前にこの全チームを率いる木山正平がやって来る。
「……えっと、今回、この部隊を預かる事になった木山正平だ。宜しく!そして、隣に居るのが、妻の石原厚美だ」
「宜しく、相手が氷系統なら私が居たほうが良いと思い、無理を言って、この部隊に入れて貰いました。宜しく、やることはしっかりとやるから」
厚美のその姿を見た瞬間、碧人は仁の背後に隠れる。
「……碧人!」
「……なんだよ。姉さん」
「石原家を出ていったと聞いたけど、何があったの?」
「何をねぇよ」
「それに私の氷の鋼鉄剣まで無くなっていたけど、それでも、何も無かったと言えるのかしら?」
「うるせぇよ。男を作って出ていった姉さんには関係無いだろ?」
「碧人!」
怒りを露にした厚美に正平は割って入る。
「落ち着いて」
「ごめんなさい」
「早々に、すまない。移動方法は十分後に転移魔法で移動するから、準備をしておいてくれ」
正平のその言葉によって、十分の猶予が与えられ、それぞれが様々な過ごし方をする中、大半が談笑していた。
チーム[アブノーマル]の談笑に正平、厚美は入り込んでいく。
「廉。大きくなったな」
「……えっと?」
「そうか。聞いていたけど、本当みたいだね。可憐さんの忘却の業火によって、記憶が無くなったんだったね」
「俺にはその自覚は無いですけど」
「そうか。それでも、廉と俺は親戚の間柄の関係は今も変わらないよ」




