第495話 倍増強化(ダブル・ブースト)
三種の神器を手に入れた三枝と藤崎の二人は地下から地上に出てすぐに、老人の姿を目にする。
そんな、老人を目にして、二人は警戒心を強める。
何故なら、その老人は日本五大剣客を四十年も務めてる実力者だったからだ。
「九十九一十四。このタイミングで貴方と出会うことは運が無い」
「……運等人が左右させる事が出来ないものだよ。若いの。全ての事柄は様々なものが折り重なって出来る事実だよ。そこに運等は無いのう」
「……まだまだ、若い私はまだ運命を信じたいのですよ」
「それも、良いだろう。若い頃でしか悟れない事がある。今のうちに学ぶと良い」
「それで、いつまでそこに居るつもりですか?」
「退くつもりは無い。ワシは一度決めたら、やり遂げるまで、やり続けるやり方を続けて、生きてきた。今さら、それを変える事なんて出来ないのう」
「では、今日が命日となりますが……構いませんね?」
「……構わないのう。子は作り、孫の成長も十分見終えた。この戦場にこそ、ワシの全てを賭けようぞ!」
一十四は腰に携えていた剣を鞘から取り出す。
その剣の細さは紙と同等レベルの細さだった。
「紙一重。切断力があり、柔軟性のあるその剣は厄介ですね。ここは私が……早く三種の神器を届けて貰える?」
「分かりました。……ご武運を」
「ええ」
「……大人しく、行かせてくれるのですね」
三枝はその場から離脱するのを止める事なく、眺めていた一十四に藤崎は疑問をぶつける。
「……老人のワシに止められるのは一人だけじゃよ」
「それで私を選んだのですか?」
「どっちでも、良いことじゃよ。誰が相手でも」
「……そう。ですか」
藤崎は鞘から剣を取り出す。
その鏡の様な刀身を見て、一十四は物珍しそうに眺める。
「……ほう。明鏡止水。珍しい剣じゃの」
「紙一重も珍しさでは有名ですよ」
「……名だけが先行して、ワシの実力は置いていかれるばかりじゃよ」
「謙遜を」
「……少し、本気でいくからの」
一十四は紙一重を強く握ると、一気に藤崎との距離を詰める。
藤崎が一十四の移動を察知したその時には、一十四が手にしている紙一重は藤崎の首元にあった。藤崎は何も出来ずに首を切断される。
「残念だ。ワシの倍増強化は一定時間の経過と共に身体能力を倍増させる能力じゃ。ワシの動きにはついて来れなかったみたいじゃな」
藤崎の首を跳ね終えた紙一重を鞘に戻した一十四は藤崎の首に目を向け、気がつく。
その首はただの肉の塊になっていることを。
「……最初から、偽物だったか」
一十四のその言葉がその場に虚しく、響き渡る。




