第482話 裏切り
「……それをするのは山口様の自由です」
「今すぐに緊急指令を発動する。北大路をここに連れて来なさい。中谷君頼めるね?」
山口の老人は一緒に部屋から出てきた中谷の老人への指示を告げる。
中谷の老人は無言で頷くと駆け足で、その場から離脱する。
「……それで、北大路さんが来るまで待機しますか?」
「……あぁ、北大路君が居れば、私は死ぬ事は無い」
日本五大剣客最強の男とされる北大路の到着をその場で待つ事にした。
緊急指令を発令する為、中谷は地下で唯一連絡を取れる連絡室と呼称される部屋へと到着した。
「どうかされましたか?そんなに慌てて」
息を切らしながら、扉を開けた中谷の老人に優しく声をかけた金髪碧眼の女性は連絡の巨大なモニターでテレビ通話をしていた。
その女性は日本五大剣客唯一の女性でもあり無能力でもある。
そんな女性のテレビ通話の相手の顔をモニターで確認した中谷は戸惑いを隠せずに居た。
「……藤崎君。何故、君が小淵沢伊織と通話している?」
「……それは私がチーム[ドミネーション]の幹部の一人であり、その傘下のチーム[ブレイド]のリーダーだからですよ」
「裏切っていたのか?」
「裏切る程の間柄ではありませんよ。私達は」
「無能力者である君を剣客に選んだ事には様々な方々の反対を押しきってまで私達は選んだ事を最初に言った筈だ」
「では、私が無能力者で無ければ、反対する者は居なかったって事ですか?」
「居なかっただろう。君は無能力者でありながら、それを感じさせない程の剣術の腕を持つからな」
「……私がチーム[ドミネーション]のさそいに乗ったのは、それですよ」
「それ、とは?」
「無能力者差別ですよ。……と、言ってももう私は無能力者では有りませんが」
「……まさか?」
「……ええ、リーダーからは異能を頂きました」
「なんて事を」
「能力育成機関は無能力者の実力を見ようとはせずに、ただ弱者として扱うばかり。私はチーム[ドミネーション]と共にこの差別社会を破壊する」
「そんな事出来る筈も無い」
「それはどうでしょう?」
藤崎は腰に携えていた剣を抜刀する。
その剣はまるで全てが、鏡の様にも見える剣だった。
「……日本五大剣客として、その明鏡止水を君に託したがその剣は返して貰おうか?」
「お断りします」
「……現時点も持って、藤崎栞里君を日本五大剣客から脱退を命じる」
「構わないですよ。最初から脱退するつもりでしたから」
「……これだけは使いたく無かったが、仕方無い」
 




