第405話 儀式の前
「構わない。妖術で体力が吸われようが、生命エネルギーを吸われようが良い。問題は魔法の鎖を体内に入れても正しく発動するかが問題だ」
「……分かりました。それでは、儀式の準備を始めますね」
相沢家の当主のその一言に琢磨は動揺する。
父が一人暴走しているものだと思っていた琢磨は父に協力しているものの存在と琴乃を二億で売った両親の存在等、琢磨は一瞬にして周りの大人達への殺意が溢れていた。
「父さん。これは、違法だぞ」
琢磨は父への脅しを開始する。
琢磨はこの脅しを始めるに当たり、幾つかの考えを持っていた。
「それがどうした?」
「えっ?」
予想もしていなかったその一言に琢磨は動揺を隠せずにいた。
幾ら、父でも静岡支部防衛局を相手に回すとは考えてなかった琢磨は必死に言葉を繋ぐ。
「父さん。防衛局を相手にするつもりか?」
「違うな。これを見ろ」
琢磨は無造作に投げられた一枚の紙を見つめる。
「なんだよ。これ?」
「見た通り。契約書だ」
「……なんで」
「この契約書は儀式による死亡に対して、俺は一切の責任を持たない。そう書いてあるだろ?あの両親がサインを書いたんだ。文句はあの両親に言え」
「なんで娘の命をこんなに簡単に捨てられるんだ?」
「守田家は禁忌を犯した。杉崎家が決めた無能力者との婚約を禁じると言う掟を破り、無能力者の子供を造った。姉も無能力者なら、その姉も人工能力者にしたところだ」
「……昔はそんな人ではなかった。母さんが死んでから何があったんだよ。父さん」
「何も、ただ杉崎家を守る為に動くだけだ」
説得しても無駄だと感じた琢磨は台の上に寝ている琴乃の起こす為に声を荒げる。
「琴乃。起きろ!」
魔法の鎖がなければ、自力で琢磨は助けに向かったが魔法の鎖に縛られ、魔法は使えず、身動きが取れない状況の為、琴乃に動いて貰うしか琴乃が助かる術が無い。
琢磨の声に反応して、琴乃は琢磨と目を合わせる。
しかし、今起きたとも思えなかった琢磨は疑問を琴乃にぶつける。
「……受け入れたのか?」
「はい。私にはなんの取り柄も無いですから、ここで位役立ってみせます」
琴乃のその覚悟を見て、何も言えなくなってしまった。
目に涙を溜めていて、今にも泣き出しそうな琴乃にかける言葉を見つられずにいた琢磨はこの場所で起きている全ての事を理解する事は直ぐには出来なかった。
「……準備出来ました」
相沢家の当主のその言葉に琢磨の父は琢磨の元へと近寄る。
「そこで見てろ。今から世界で唯一の魔法の鎖の能力者が誕生するかもしれんぞ」




