第321話 覚醒の廉
リンのその言葉に廉は何も答えない。
そんな廉にリンは苛立ちをぶつける。
「このままじゃ、あの川上玲奈みたいになるよ」
リンはただ廉を戦う様に促そうとしただけだが、廉にとってはずっと現実から逃げる為に考えない様にしていた川上玲奈の敗北。
廉の体が疼く、体中が悲鳴を上げる。
それよりも体の奥底の何かが暴れる様な感覚が廉を支配する。
その瞬間から炎神の魔剣の炎と剣はどす黒く染まっていく。そして、廉の体中から黒いオーラが溢れ出す。
「……廉お兄ちゃん。このタイミングで覚醒するなんて……」
リンは後退りをしながら、廉との距離を取る。
廉のただならぬ、その気迫にリンは逃げる準備を始める。
廉はどす黒くなった炎神の魔剣を振るう。
どす黒い炎は千手観音とリンを捉える。
千手観音はどす黒い炎に包まれると燃えるのでは無く。
一瞬で灰と化した。
リンは素早く、勝利の聖神剣を発動させ、どす黒い炎を凪ぎ払う。
「廉お兄ちゃん。危ないよ。私のこの剣が炎に対する耐性と天使属性の治癒がなければ死んでたよ」
危ない状況にも関わらず、リンは笑顔で答える。
そんなリンに対して廉は剣に纏われているどす黒い炎を放つ。
リンは背に炎に覆われた翼を生やし、どす黒い炎に対して手にしている勝利の聖神剣で防ぐ。
勝利の聖神剣だけでは防げずに、リンの皮膚にどす黒いオーラが触れる。どす黒いオーラはリンの皮膚を破壊していくが、勝利の聖神剣に含まれている天使属性の治癒力で直ぐ様回復する。
「……明神明菜から天使属性の能力を奪っておかなければ、死んでたよ」
リンは笑顔で話続ける。
そんなリンを見て、廉の体中のどす黒いオーラは更に膨れ上がる。
「……そうだよ。廉お兄ちゃん。その力だよ」
リンは炎に包まれた翼をはためかせて飛んでいく。
廉はそれ以上の攻撃はすること無く、飛んでいくリンを見つめていた。
廉は怒りに任せて、目に付く仏像達を狙い攻撃していく。
廉が21体目を倒した時だ。
廉は一人の男を見つけて、立ち止まる。
その男は右手に魔剣を、左手に廉が知っている剣を握っていた。
その剣は黄金宝石の剣。
川上玲奈の異能によって造り出す事が出来る剣であり、現在玲奈が目覚めない理由の一つになった原因でもある。
その男は大勢の人間に囲まれているものの、余裕を感じさせる程の力を発揮して、大勢の人間を簡単に倒していく。
廉は何の迷いも無く、どす黒い炎神の魔剣を強く握り、その男ージークフリード・アンサンブルを目掛け振るう。




