第3話 廉の覚悟
「今日、遅かったね」
舞は時間に遅れた廉に心配して、駆け寄る。
この道場でも、廉が親しくするのは、舞だけである。それは廉のコミュニケーション能力が低い事が理由ではなく、この道場には門下生が先月で廉と舞だけになってしまったからだ。
「ずいぶんと遅かったじゃない……廉」
この声を聞いた廉は背筋が凍りついた。廉は直ぐ様弁明を開始する。
「色々あって遅れました」
「色々?」
舞の母親にして、この川上道場の師範川上玲奈は笑っていた。しかし、その笑顔が逆に廉の恐怖を駆り立てた。このままでは、玲奈の機嫌を損ねると感じた廉は何の恥じらいも、躊躇いもなく、見事な土下座をして見せた。
玲奈と言う女性の前では土下座程度では許しを得る訳も無く、無抵抗な廉は竹刀で体を痛め付けられていた。
「はぁ~」
廉は一人道場に残り、掃除をしていた。自然に出たため息にため息をすると幸せが逃げると言う言葉が頭を過った。そんな廉は不幸だからこそため息をするのであって、幸せな状況でため息などしないだろうなんて考えながら、掃除を続けていた。
「廉、終わった?」
「あぁ、もう終わる」
廉は扉から顔を覗かせる舞にそう答えた。
舞は無言のまま廉に近づくと、廉の隣に立った。
「明日、入学式だね」
「そうだな。それが?」
「ただの雑談だよ」
「俺は掃除中だぞ」
「うん。見れば分かるよ」
「なら、手伝え。終わったら、話を聞いてやるよ」
廉は掃除用具からモップを取り出し、舞にモップを差し出す。
舞はしぶしぶ、モップを手にすると、廉と舞の二人は掃除を始める。
二人でやった事もあり、掃除は直ぐに終わり、二人は道場の壁に背を付け、座っていた。
「明日の入学式何か不安な事でも有るのか?」
「何で?」
「お前がさっき入学式の話題をわざわざ言ってきたからだ」
廉のその言葉を受け、考え込む舞は決心するかの様に話し始める。
「能力者育成機関東京本部って毎月の課題が達成出来なければ退学になるって聞いたから……」
廉は舞の悩みの原因が分かり、一安心するが、その不安は廉も感じていた事だった。能力者育成機関は日本全国に支部と本部が存在しており、二人は明日東京本部に入学する事になっており、能力者育成機関高等部は中等部とは違い、課題がある。その課題が達成出来なければ、最悪退学の可能性もある。そんな高等部でも生き残る方法は存在している。
「舞、俺とチームを作らないか?」
廉は高等部の課題達するさせる方法で最も効果的な方法を舞に提案する。
「チーム?」
「あぁ、チームで受けた依頼を達成すればチーム全員が依頼達成となる……詰まりは俺一人で依頼を達成したら舞も一緒に達成したことになる」
「廉一人に任せるなんて……チームは組むよでも……私も頑張ってみるよ」
舞はそう言うと静かに立ち上がり道場を出ていく。舞の表情に笑顔は無かった。常に笑顔を絶やさないその舞の顔を見て、廉は覚悟を決める。一人で舞を守ると