第291話 リンの剣
「仁。ここから逃げたほうが良いよ」
屋上に居た者以外の声が全員の耳に届いた。
しかし、全員が知っていた声だ。
「デューク……」
仁は振り返り、声の主であるデュークに今までどこに行って居たのか聞こうとしたが、首が無い事に思わず言葉を詰まらせる。
そんな仁だったが、言葉を絞り出す。
「お前……毎回、兜を失う体質なのか?」
「嫌、僕と戦う相手が全員、首を跳ねようとするんだよ。まぁ、元々、首が無いから良いんだけど」
デュークは過去にデュラハン・ブレイブによって首を跳ねられた過去を持つ。デュラハン・ブレイブの効果によって、デュークは頭が無い状態でも生きる事ができ、日常会話等はデュークが着ている鎧の胸に取り付けられている大きな魔法石によって補われている。
「それで、逃げたほうが良いと言うのは?」
話が逸れた為、正宗は元の話に戻そうと話を変える。
正宗に言われ、デュークは思い出したかの様に話を進める。
「チーム[フレイム]のリーダーが仁を探してる。目的は分からないけど」
「目的が分からない……確かに距離を取るべきでしょう」
デュークの話を聞いて、正宗はチームリーダーである仁に撤退を促す。
しかし、仁は直ぐに決断をしない。
「何かあるのか?」
直ぐに決断をしない仁を見て、隣に居た碧人は心配そうに尋ねる。
仁は碧人からのその質問に校舎を攻撃した少女が持っていた剣を思い出していた。その剣は仁が何度か見た事があった剣だった。
しかし、仁の知ってるその剣は少女が持つ光輝く剣とは違い、黒い刀身に黒いオーラを放出させていた剣だった。二つの剣は対照的で仁を強く引き寄せる。少女が持つその剣を見てから仁の頭から離れる事がなかったその剣の正体を知りたいと仁は強く思っていた。
「……嫌、何でも無い」
仁は嘘をついた。
しかし、仁の抱いたこの感情をどう説明するのか、仁には言葉に表す事が出来ず、説明を諦めた。
そんな嘘に気がついたのは中学時代から共に居た碧人と檜山家がまだ存在していた頃、常に側に居て仁を警護していた正宗の二人だった。
「それでは、取り敢えず移動しましょう」
正宗はチーム全体に指示する。
そんな中、碧人は仁に近寄る。
「仁、どうする?」
仁は碧人のその言葉を理解出来ずに思わず、聞き返す。
「何がだ?」
「行くなら、一緒に行くぞ」
碧人のその言葉に仁は目を見開き、碧人の顔を見つめる。
不思議な表情の仁を見て、碧人は呆れた表情で告げる。
「何年一緒に居ると思ってるんだ?お前の考え位分かる」
「……そうか。なら、一緒に来てくれるか?」
「あぁ、最初からそのつもりだ」