第281話 黒魔術(オーバーロード):変装術
東京本部防衛局内。
現在のガードマンを撃退して、内部に侵入したヒルデは幹部を探して歩き出していた。
(とりあえず、彼女の体を貸しましょう)
ヒルデは目的を明確に定めると動き出す。
ヒルデは目の前に居た女性の体に触れる。ヒルデの手から溢れ出した黒いオーラは触れられていた女性の体を全て包んだ。
黒魔術:変装術。
黒いオーラを顔や体を包み、姿形を変える事が出来る魔法。
しかし、ヒルデはそれに加えて、相手から奪う事が出来る世界で唯一の女性だ。
黒いオーラに包まれた女性は顔が無くなり、服までもが無くなる。
その全てがヒルデで移っていた。元の女性はただの全裸の肉の塊となっていた。女性ではあったものの、胸等もヒルデに移っていた。
(……何の情報も持ってないか)
女性の記憶から今回のチーム[ヴァルハラ]の迎撃方法を盗み出そうとしたが、この女性からは何も得られないと知ると次に奪うべき人間を探す為、全く動かない肉の塊となった女性を魔法陣に潜らせて、空間内に移動させる。
その瞬間に背後からの足音に気がつく。
ヒルデは現在、女性から容姿、体型等、全て奪っており、心配はない。
その為、ヒルデはこのままやり過ごす事に決めた。
「どうしたんだ?作戦会議に遅れるよ」
「ごめんなさい。今、行くわ」
女の姿をしているヒルデは足を進めるが、男はその場に立ち尽くす。
「どうしたの?」
立ち尽くす男に女の姿をしているヒルデは疑問をぶつける。
「誰だ?」
「……どうして?」
「ブリュンヒルデ・キースだな。彼女が遅れる事はあり得ない」
男は魔法陣から剣を取り出し、女の姿をしたヒルデの首元に刀身を置く。
「どうするの?」
「答えろ。ブリュンヒルデなのか?」
「……そうよ」
ヒルデがそう答えると男は直ぐ様、首を切り裂いた。
女性の首は宙を舞い、地面に落ちていく。
首を跳ねたものの、体は倒れる事無く立ち続けている。
そんな状況に男は変な感覚を感じる。
男は確かめる様に首が無くなったはずの女性を見つめる。
「……」
男は声を出す事も出来ずに、後退りをする。
「あら、何か可笑しな事でもあったのかしら?」
ヒルデは嘲笑う様に男に告げる。
男は理解出来ずにヒルデの顔を見つめていた。
男は確認を取る様に地面に落ちている首を見つめる。
「そう言えば、彼女貴女の恋人だったわね」
ヒルデは魔法陣を展開させ、女性の体を取り出す。
「何故だ?」
「……何が?」
「何故お前の首が繋がっている?」
「何故って、貴方が斬ったのは私では無く、彼女だったでしょう」