第278話 川上玲奈(かわかみれな)
四月七日
「それじゃ、玲奈さん。いってきます」
「夜には戻るからね」
木山廉と川上舞を玄関で見送る川上玲奈はいつもとは違い寂しげな表情で送り出した。
家に玲奈一人になり、暫くして家のチャイムが鳴る。
その音を聞いた玲奈は覚悟を決めて、扉を開ける。
そこには白い髪に白い髭を生やした老人が立っていた。
孫一。
東京本部防衛機関副隊長を務めている人物だ。
そんな人物が玲奈の前に立っている。
「……貴方が動き出すなんて……そんなに状況は不味いんですか?」
「あぁ、君にも手伝って貰いたい」
「……私は……」
「分かってる。君には守るべきものがある。しかし、事態はそんな事を言っていられる程の余裕は無い」
「では、日本が壊滅するレベルまで来ているのですか?」
「断言は出来ない。しかし、東京本部は壊滅する可能性がある。詳しくは、東京本部防衛局まで来てもらう」
「分かりました。話は聞かせて貰います。やるかはそれから決めさせて貰います」
「……それで良いだろう。身支度はしてもらうよ」
「直ぐに」
玲奈は孫を少し待たせ、家に鍵をかけ、外に出る。
「準備は良いのか?」
「何の準備でしょう?」
「……覚悟……戦う覚悟に……死の覚悟もして貰えると助かるが」
「……やると決めたら、覚悟も決まるでしょう」
「……似ているな」
「誰にですか?」
「君の父親に……君の旦那に」
「……そうですか?」
「あぁ、二人とも東京本部防衛局の幹部で優秀な人達だったよ」
孫の告げただったと言う過去系のその言葉に玲奈は亡くなった二人を思い返していた。
「転移魔法で移動するが、問題は無いかな?」
「えぇ、行きましょう」
孫は地面に魔法陣を出現させ、移動を始める。
「随分と慌ただしいですね」
「あぁ、チーム[ヴァルハラ]が来ているとの情報を掴んだ」
「チーム[ヴァルハラ]が?」
「君とは因縁があったな」
「……私にも前線に立たせて貰えるのでしょうか?」
「敵討ち等君らしくも無いが」
「では、戦わなくても?」
「……嫌、ここに君を呼んだのはその為だ。戦って貰うよ」
「えぇ、やりましょう」
「その前に君に確認を取りたいのだが良いか?」
「良いですが……なにをですか?」
「この写真を見てくれ」
孫から写真を受け取った玲奈は写真を見つめた。
写真に写っていた男性の腕は黒く腐敗して、切断されていた。
この写真からはその情報しか読み取れなかったが、これだけで、玲奈は確信する。