第270話 羽田海斗
京から逃げてきた成田は外に出て気がつく。
このショッピングモール全体には、山瀬の異空間移動によって覆われていたはず、だが、今は何も覆われていない。
異空間移動によって異空間に包まれていたのは出入りの無効と音漏れしない様に施されていたが、今はそれが無い。
これは山瀬が異空間を維持出来ない状況になった事を意味している。
それどころか、出入りが自由に出来る。
成田は覚醒した異能、黒神の重力を解除して重力操作の能力に切り替える。
成田は重力操作を使い浮遊を始める。
「久しぶりだね」
浮遊を始めて直ぐ成田の目の前に一人の男が立ち塞がる。
成田はその男を目にすると浮遊を止め、地に降り立つ。
成田は目の前に居る男ー羽田海斗を見つめる。
「久しぶりだな。羽田。こんな所で何をしている?」
「う~ん。審判をした帰りだよ」
「審判?」
「あぁ、学校のね」
「下らん。まだそんなお遊びをしているのか?」
「遊びじゃ無いよ。僕は本気さ」
「……それで?ここに来たのは偶然って訳じゃないだろ?」
「……」
「だってそうだろ?ショッピングモールは音がしなかったとはいえ、こんなにも崩れており、ショッピングモールに入ろうとしたものは入る事も出来ないショッピングモールに人が居ないほうが可笑しいだろ?」
「……そうだね。君はなにやら、頭に入れたみたいだから直ぐに理解するって言っていたけど、本当みたいだ」
「お前の話からすると誰かに聞いたみたいに話すじゃないか」
「あぁ、近くに居たのは僕しか居なかったみたい。だから、僕が選ばれた。今回のこの作戦に」
「作戦?」
「あぁ、君がこの時間にここに来る事も含めてね」
「……ナギサか。神の頭脳には勝てないか」
ナギサの持つ情報が詰まったチップを脳に埋め込んだ成田はその情報を得る事に成功したが、知識において、ナギサには勝てないと成田は痛感していた。そんな成田は羽田が告げた作戦と言う言葉を気にしていた。
ナギサが考えた作戦はここまで順調に進んでいるのであれば、このまま普通の考えでは確実にナギサが考えた作戦通りに進んでしまうだろう。
そこで成田はこの状況ではしない事をする事に決めた。
「悪いな。羽田。今回は敗けを認めてやるよ。また今度な」
成田は直ぐに違和感を感じる。
(しまった……覚醒を解除してから時間が経ってない。これじゃ、黒神の重力を使えない)