第257話 異空間移動(ディファレント・ムーヴ)
「早くして」
愛花は動かない長谷川を急かす様に告げる。
長谷川は迷いはしたが、移動を開始する。
「何やってるの?」
「えっ?」
愛花に言われ、長谷川は初めて気がつく。
電光石火の能力者の長谷川にとっては初めての経験だ。
電光石火を使えば直ぐに移動出来るはずなのに、長谷川が移動した距離は僅かだった。
「一体これは……」
「気づかないか?」
「何をだ?」
「俺が現れた時からお前たちは俺の空間に居る事をだ」
「空間移動か?」
(何故、今回は自身の空間に?)
長谷川は移動を止め、愛花の隣に立つ。
「今回も二人でやるしかないみたい」
「……嫌だけど、やるしかないね」
戦闘体制を取る二人を見て男は微笑む。
「嬉しいね。これで二人殺れる。ついで、練習相手にもなって貰うぞ」
「練習相手?」
「あぁ、俺の空間移動は異空間移動に覚醒したんだよ」
「覚醒……都市伝説かと思っていたよ」
「お前も能力者ならその力を求めたりしただろ?」
男のその言葉に長谷川は何も言い返せなかった。
長谷川は辺りの確認をしていたからだ。
男の話では、ここは男の空間内に居る事になる。
しかし、長谷川にはいつ男の空間内に入ったか見に覚えが無かった。
だが、男が言った異空間移動ならそれが可能なのかと言う疑問を長谷川は抱いていた。
「助けが来ないこの空間で二人まとめて殺してやるよ」
「何が空間よ。勝つのは私よ」
愛花のその台詞に長谷川は付け加える。
「僕達ね」
「また、止めを指すのは私だから」
「……分かっていると思うけど、同じ手が通用するとは思えないよ」
「分かっている。そこまで馬鹿じゃない」
「それじゃ、どうする?」
「……この空間があいつの手の内何て気味が悪い」
「なるほど、この空間から抜け出したいって事だね。僕も賛成だよ」
二人はこの空間内からの脱出を目指し、動き出す。
愛花は自身の目の前に魔法陣を出現させる。
「魔法固定砲台か。俺にはもう当たらない」
「何を言っているのかしら。あんたは一度私に負けているんだから」
「一度はなぁ。次は俺が勝つ」
「何度やっても私には勝てない」
愛花は目の前に出現させていた魔法陣に魔力を貯め、直ぐ様放つ。
魔法陣から放たれたその一撃は真っ直ぐ男に向かって飛んでいく。
愛花の放ったその一撃は圧縮された勢いを増した魔力の塊だ。そんな魔法固定砲台の一撃を避けようともせずに男はただ、微笑んでいた。