第229話 空間移動(スペース・ムーヴ)
愛花が居なくなったその場所で二人の男は睨み見合っていた。
一人は成田の指示で愛花を連れ去る為にここに来た男。
もう一人はふらつく、愛花を目にした男。
「お前と戦っても良いが、今は時間が無い。また今度相手してやるよ」
「悪いけど、僕の能力をもってすれば貴方を捕らえる事が出来る」
「拘束系の能力か?」
「……身体能力の向上系と言っておくよ」
「じゃあ、俺を捕らえる事は出来ないな」
成田の指示で愛花を捕らえに来た男は一瞬で姿を消す。
「移動系の能力……嫌、異能か?」
魔法陣を利用して居ない為、転移魔法で無い事を理解して男は残りの可能性を口にする。
「随分と近くに居たな」
愛花は背後から聞こえてきた声に反応する様に振り返る。
そこには、愛花を拐おうとした男が立ち尽くす。
そんな男を確認して愛花は魔方陣を出現させる。
「止めておけ、俺の空間移動は空間把握が出来る。お前がどこに逃げても直ぐに分かる」
愛花は何故男が直ぐに追い付いた理由を理解すると共に逃げ場が無い事を認識する。
(空間移動の能力者。移動と把握が出来るみたい……私の魔法固定砲台とは相性がかなり悪い)
魔法固定砲台は動かす事が出来ない為、移動系の魔法、能力、異能との相性はかなり悪い。その事は誰よりも愛花が一番理解している。
「俺と一緒に来て貰うぞ。それとも抵抗してみるか?」
「抵抗するに決まってる」
「……そうか。精々頑張れよ。成田はお前をどうするか分からないからなぁ」
病院を躊躇なく、破壊した成田の事は愛花が知っている事だ。そんな成田はナギサの居場所を聞き出そうとしている事は成田自身から聞いていた為分かっていた事だ。
目の前の男に負ければ、成田の元まで連れていかれ、ナギサの情報を聞き出そうとするだろう。しかし、何の情報も持たない愛花は人質として扱われるだろう。それだけは愛花が避けたい事だ。
愛花は頭上に魔法陣を展開させる。
その魔法陣の中心には魔力が圧縮されていた。
(なるほど……頭上に出す事によって360度対応出来る様にしたか。でも、あいつの周辺に入れれば問題無いな)
男は愛花の頭上に魔法陣を確認すると的確な判断をする。
魔法固定砲台は前と後ろから放つ事が出来る。左右、上下は放つ事は出来ない。それは魔法陣が円形の形をしているのが、理由と言える。
魔法固定砲台は魔法陣をいつ展開させるか、使い手の上手さが問われる。
愛花が上手く使えるかと言えばまだまだ粗削りな所がある。




