第227話 重力操作(グラビテーション)
「聞きたい事があるんだが……ナギサをどこに隠した?」
(ナギサ?……あの時居た。子供の事?)
愛花は病院に来るまで居たナギサの事を思い出していた。
「知らない」
「……そんな訳無いだろう」
成田は重力操作を発動させる。
ベッドに横たわる愛花に重力が重くのし掛かる。
「居場所を言わないとお前の体中の骨を砕くぞ」
「知らない」
成田は重力に押し潰されている愛花を見つめて、ポケットからスマホを取り出す。
「こっちです」
スマホを眺めていた成田は騒がしくなる廊下に目を向ける。
この短時間で成田を捕らえるべく、動ける人間が病院に来るとは予想は出来ていたが、ここまで早いとは思って居なかった成田はどう動くか考えていた。
愛花からナギサの居場所を聞き出せないまま、病室を後にするとなると、愛花の病室には護衛がつけられる。それにナギサの情報を持つ愛花をここで見逃す事は出来無い。
成田が考えをまとめていたその時、重力に押し潰されている愛花は成田の背後に魔方陣を出現させる。
その魔方陣には魔力が圧縮されていた。
魔法固定砲台。
世界でも珍しい魔法で扱いが難しい魔法だ。
魔方陣を出現させ、その場に固定させ、魔法を圧縮して放出させるのだが、魔方陣の移動は出来ない為、相手の移動を予想して魔方陣を出現させる必要がある。成田の背後に魔方陣を出現させている。成田がその魔方陣の存在に気づかなかったら、このまま圧縮した魔法を成田に放つ事が出来る。
愛花は魔方陣に圧縮させた魔力を成田目掛けて放つ。
その一撃は病院の機能を一部停止させる程の威力だった。
愛花は窓を開け、飛び降りる。
その空中に魔方陣を展開させ、魔方陣をくぐり抜ける。
転移魔法によって愛花は数キロ先の病院の外に移動していた。
「どこに行った?」
激しい愛花の魔法固定砲台の一撃は病院の患者にまで影響を与えていた。
そんな患者に目を向ける事もなく、成田は姿を消した愛花を探していた。
病院にとって電気が消えた事は精密機械が機能しなくなった事を意味していた。それは生命を維持していた者にとっては生死をさ迷う事になる。
愛花は行く宛もなく、ただひたすら前に進んでいた。
成田は愛花の居た病室の窓が開いていた事に気がつく。
成田は窓の外を確認する。
「ここから逃げたか?」
しかし、ここは五階だ。
飛び降りるにしてもためらう高さだ。
だが、愛花が魔法を扱える者だと理解している成田は直ぐに転移魔法の可能性に気がつく。