第193話 ナギサ
「今日までありがとう。今日を持って君の持つ知識は全て回収出来た。後は君のクローン、アンドロイド、コンピューターに入れれば完了だ」
ナギサは理解出来ていた。
詰まりナギサの存在はこの研究所は居場所が無いものとなった。
ナギサは自身がこの後、どうなるのか理解していた。死の覚悟は出来ていた為、死の焦り、恐怖はナギサからは感じられない。
ただ落ち着いていた。
ナギサは研究所を見渡す。
自身のクローンが電極を繋げられ、知識を入れ込まれている光景。
成功したクローン体はあまりにも少なく、アンドロイドに切り替えられ、アンドロイド達が研究所は歩き回る光景をナギサは見ていた。
そんな光景に自身の居場所は無いのだとナギサは理解した。
「あのガキどうすんだろうな?」
「……あいつの存在価値は知識だけだ。もう全ての知識を写し終わっている。別の機関に連れていくか?……殺すか?……どのみち普通の人間としては扱われないだろう」
そんな研究者達の会話をナギサは無言のまま聞いていた。
それを聞いても、ナギサは動じない。
ナギサは研究所を見終わると元居た場所に戻る。
その翌日に京と出会う事になる。
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「分かって貰えた?これから死ぬの」
「……お前は……それで良いのか?」
「……最初から決まっていた事だから、ここで出会えたのも何かの縁だから……」
ナギサの頭上から光輝く脳は京と同化しながら光輝く。
それが終わるとナギサは笑顔で京に別れを告げる。
「バイバイ」
「……何を……した?」
「……貴方の能力の進化。どう転ぶのも貴方次第だよ。これで私が亡くなっても……生きた証は残り続ける」
「意味が分からねぇ」
「神の頭脳によって貴方の能力を底上げしたの」
「……ここから逃げようとは思わないのか?」
「そんな事、考えた事も無かった。そんな考えがあったら別の人生もあったかもね」
ナギサは終始笑顔で京と話す。
京にとって、ナギサのその笑顔は今から死ぬ人間だと感じさせない。
ナギサはしっかりとした足取りで奥の部屋に向かう。
その部屋でナギサが殺される事を京は理解しているにも関わらず、京は動かない。それは自身の能力が少女1人すら助けることも出来ない能力だと京は理解していたからだ。
「お待たせしました」
椅子に座り、待っていた京に研究者が話しかける。
その研究者を見て、自身の任務を思い出す。
「早くしろ」
京は研究者に威圧的な態度で答える。
京は少女1人助ける事も出来ない事に八つ当たりをする。
そんな自分に苛立ちを募らせる。