第144話 翔の一撃
「……あんな高くに飛ばれたら……どうすれば?」
空高く飛ぶドレアと翔を見上げ、舞は呟く。
舞には飛ぶ手段が無い為、ただ見上げる事しか出来ない。
剣を投げつけても良いが届くとは思えない距離だ。
それに突然動かれたら翔に当たる可能性もある為、舞はこの戦いを見守る事しか出来ない。
そんな舞に対して空高くに居る二人は動く。
翔は右手に移動しているケルベロスの頭上から伸びた雷の剣をドレアに目掛けて大きく振るう。
そんな翔に対してドレアは最低限の動きで翔の振るった剣をコートの袖で簡単に防ぐ。
翔はドレアのコートと能力の厄介な事を理解する。
ドレアが着ているブラックコートは魔力を与えれば大きさは自由だ。
それに加えて、黒神の衣がある。
黒神の衣は黒い衣服の強度と強化を与える能力だ。
黒神の衣がある限り、翔の剣は簡単に防がれる。つまり、翔が出来る事は黒神の衣の強度を超えるダメージを与えるか、ブラックコートを脱がせるかのどちらかだ。
女性の衣服を脱がせる事に抵抗がある翔は出来る限りのダメージを与える事を選ぶ。
翔は左手に移動させていたひし形の盾に姿を変えていたケルベロスを元に戻し、肩の上に乗せる。
「ゲロス」
翔のその言葉に頭が一つだけのケルベロスは右手に居る頭が一つだけのケルベロスに寄り添う。
右手には二つの頭のケルベロスがいる。
二つの頭のケルベロスの頭上から雷が伸びており、その雷は激しさを増す。
「その可愛いらしい子犬の剣で私を倒せるかしら?」
「殺ってみせる」
翔は己の持てる魔力を右手に集中させる。
右手に居る二つの頭を持つケルベロスの雷は更に激しさを増す。
「この一撃で終わらせる」
「……出来ると良いわね」
真剣な眼差しの翔に対して、不適な笑みを溢すドレアの全身からは黒いオーラが放出されていた。
(この黒いオーラは黒魔術か?……それとも覚醒か?)
人間が体から黒いオーラを放出させるのは一部の例外を除いては黒魔術か覚醒のみだ。
詰まり、ドレアの全身からは放出される黒いオーラは二つの内のどちらかだが、それを知る事が出来るのはドレアだけだ。
黒魔術なら幻術だ。
覚醒なら黒神の衣の能力が異能力になる。
黒神の衣の上がある事実に翔は絶望よりもそんな相手と戦える状況に嬉しさを覚える。
翔は転移魔法でドレアの頭上に移動する。
「ゲロス、ここで決めるよ」
「ガォォォ」
ケルベロスの雄叫びが響き渡る中、マントに姿を変えていたケルベロスは右手に移動し、右手にはケルベロス全ての頭がある。
これが翔の持てる全ての力だ。
翔は自身の最強の一振りをお見舞いする。