第139話 黒魔術(オーバーロード):忍術
お互いに忍者刀をぶつけ合う二人は明らかな実力がある。
己の限界の限り忍者刀をぶつけていた総助の限界は近い。
半蔵は一瞬の隙を付いて、総助の腹に蹴りを一発入れる。
魔法や魔法による強化も無いがその威力は余りにもデカい。
総助は吹き飛ばされた地べたに這いつくばる。
「……言った、筈だ……後を……追いかける……なと」
総助は目の前で起きた状況に理解が追い付かない。
半蔵が声を発したからでは無い。あれ程の強さを持っていた兄がたった一人の少女の幻術にかけられ、まともに会話も出来ないこの状況に、総助の頭は追い付かない。
総助にとっては半蔵こそが一番の憧れであり、尊敬し、強さの象徴だった。
そんな兄の姿を想像すらしていなかった総助にとってはこの状況は信じがたい現実だった。
「兄貴……」
「総助……逃げろ」
半蔵の持つ忍者刀は少しずつ動き総助を向けられる。
半蔵の動きを見る限り、大分抑えられている。
総助は理解した。幻術にかけられても自身の意思を見せる兄を見て、変わらない兄をそして何よりも目の前に居る強敵は今まで近くで見て来たがこれが初めて勝てる可能性がある戦いになると総助は考える。
そんな考えている総助は勝利の可能性の喜びよりも寂しさが強く感じていた。
半蔵が持つ忍者刀は素早く伸びる。
総助は忍者刀の防御をせずに魔法陣を展開させ、伸びた忍者刀を防ぐ。
半蔵は忍者刀を腰の鞘に収める。
「兄貴?」
総助は半蔵が忍者刀を収めた事から正気に戻ったと考えていたが、その期待は脆くも崩れ去る。
半蔵は手を動かす。
それは忍術に必要な動作だ。
魔法にはスペルや印を結んだり、描いたり等様々な事をして効果を得る物がある。
忍術は印を結ぶ事で忍術を使う事が出来るが、半蔵は少し違う。
手合わせ。
半蔵は印を省略して手を合わせるだけで忍術を扱う数少ない人間だ。
そんな半蔵に総助も忍術で対抗する事を決める。
総助の右手と左手がぶつかり、大きな音が響く。
「兄貴、俺は昔の俺じゃ無い」
総助は目の前に居る半蔵と同じく手合わせで忍術を扱う。
半蔵は微笑む。
同じ、手合わせでも白魔術と黒魔術では扱う忍術は全く違う。
通常の忍術は基本的に白魔術だけだ。
だが、黒魔術を扱う半蔵には通常の忍術とは異なる。
半蔵の合わさった両手から黒いオーラが溢れ出ていた。
半蔵は右手に黒いオーラを凝縮させる。その右手を総助に向かいつき出す。
「邪遁:黒宇宙の砲撃」
右手に凝縮され、星が散りばめられた黒いオーラは勢い良く総助に向かい放たれた。