第1013話 黒き仮面
「久方ぶりだな。九十九一夜」
その男は鬼の仮面を付けた男であり、一夜にとっては因縁の相手と言える相手である。
「……二人でここに来るとは、まだ居るだろ?」
「川上玲奈と川上舞の体を持って帰るのに、我々二人で十分だと判断した。後の者はここに誰も近づかせない様に待機させてある」
「随分な自信だな」
「かつて殺せた男だ。今でも軽く捻れる」
「……舞、お前はあの黒い仮面をやれ……俺は鬼の仮面をやる」
一夜のその言葉に舞は一度頷くと紅桜を強く振るう。
「紅桜:不知火型:桜吹雪」
異能は所有者の思いに応じて幾つもの覚醒を得る事が出来、魔法や能力ではなし得ない技の威力拡張型の覚醒を得られる。現在舞が放った一撃も覚醒の一撃であり、スピード、威力は通常の紅桜よりも遥かにパワーアップしたものである。
「……無意味の事だ」
黒き仮面の男は右手を突き出し、右手から黒いオーラを放出させる。桜吹雪は紅桜から出現させた桜の花びらを一点に集中させたその一撃は黒き仮面の男の右手から発生した黒いオーラに吸い込まれていく。
「……無意味と言った筈だ」
「黒き仮面よ。連れていけ」
鬼の仮面の指示通り、黒き仮面の男は黒いオーラを放出させ、黒き仮面の男と、舞は別空間へと飛ばされた。
「無意味な事は一切するつもりはない。川上舞、実力差を理解し、その身を我々に差し出せ」
「……どんな理由があっても、人を傷つける様な人に着いていこうとは思えない」
「仕方あるまい。無理矢理に連れていこう」
舞は紅桜だけでは力不足を理解し、紅桜を覚醒させようとする。
「……何で?」
覚醒が出来ない事に気がつき、戸惑う舞に語りかけてくる者がいた。
(舞、これは実践よ。貴女が編み出した覚醒は技だけにして貰うわ。紅桜本体の強化なら、私の原初の力を使いなさい)
神器の本来の力、原初の力を会得した者は死してもその神器に残留思念として残され、次の世代の者に力を与える事もある。現在の舞にも紅桜に留まっている一人の芽以の力を受け継いでいる。
(分かりました。芽以さんの力を使わせて貰います)
舞は紅桜から黒いオーラを放出させ、紅桜を覚醒へと至らせる。紅桜の刀身は何の変化も見られないが、黒き仮面の男は直ぐに察した。その変化は紅桜ではなく、舞自身の雰囲気とオーラが別物へと変化した事を
「紅桜:ソメイヨシノ式」
舞は一瞬、黒き仮面の男の元に移動し、紅桜を振るう。黒き仮面の男は両手から黒いオーラを放出させ、舞の一撃を防いでいた。