婚姻届提出まで─大家族?─
そして手を洗ってから、いただきますをしてデミグラスソースがかかったオムライスを一口食べる。
「んー!!美味しいです!!」
お店で出てきそうなほど美味しくて思ったより大きな声が出てしまった。
「えへへ、ありがとうー。お料理は得意なのー」
プロの料理人さんが作ったみたいな味ですごく美味しいと、私が褒める隣で先輩がボソッと呟く。
「……和食以外はね」
「隼人」
すかさずお父さんが咎める。先輩は気にせずオムライスを口にしている。なんだか気まずい雰囲気かと思ったけどお母さんはふふっ、と笑うだけだ。
「椿ちゃんはお料理得意?」
「あ、えっと、得意ってほどではないですけど」
「3日間カリフラワー出し続けたら良いわよ」
「カリフラワーですか?え、先輩って嫌いな食べ物あったんですね」
「いや、食べようと思えば食べれるよ」
「でも3日連続で出したらもう無理って言い出すから。イラッてしたらそうしたら良いわよ」
「は、はい……」
先輩のお母さんってフワフワ天然ってだけじゃないんだ。ちょっと面白い。
「そうだった!!椿ちゃん、お義母さんって呼んでみてー」
「え、急ですね」
先輩みたいに話が急で驚いてしまう。でも心の中で毎回先輩の、と付けてると大変だからお母さんと呼ぶのと違って実際に呼ぶのはちょっと照れくさい気がする。早く早く、という目で催促してくるお母さんに苦笑いして私は言う。
「えっと、お義母さん」
「えへへ、嬉しいわー!!ね、琉依さんもお義父さんって呼んでみて!!」
「え?お名前じゃなくて良いんですか?」
「うん。隼人には親父って呼んでほしくて呼ばせたんだけど女の子にはやっぱりお義父さんって呼んでほしくて」
ん?先輩以外はみんな名前で呼んでるみたいだから琉依さんって呼んだ方が良いのかなって思ったんけど話噛み合ってるかな?まあ、良いか。
でも昔より渋みが出たって言っても若くて先輩のように大きな子供がいるお父さんには見えないんだよね。……呼びにくい。
「椿さん、お義父さんって呼んでほしいな。駄目?」
「うっ」
先輩と若菜の駄目?攻撃はお父さんの影響だったのか。捨てられた子犬みたいな表情に私は陥落した。この顔に弱い……。
「お、お義父さん」
「なーに?」
「……え?」
呼んでって言われたから呼んだだけなのにそう返されてしまって戸惑う。ニコニコ笑顔のお義父さんに戸惑っていると隣に座る先輩が私の頭にポンと手を乗せた。
「親父、椿が困ってるから。からかうの禁止」
「ごめんごめん」
なんだ、からかわれたのか……。お義父さんも独特だなーと苦笑いする。
「僕は椿ちゃんって呼んで良い?普段はそう言ってるんだ」
「そうよー。隼人がいない所では今椿ちゃんどうしてるかなーとか若菜が元気そうだって言ってたわーとか椿ちゃんに早く会いたいねーって話してるの。みんなでね、みんなで」
「そ、そうなんですね。あ、でも聞きました。若菜の初めての友達だから良く思ってくれてるって」
「ほえっ!?」
私がそう答えるとお義母さんが不思議な声を出して頬を膨らませる。
「隼人の馬鹿!!それじゃあ私たちが若菜の親友だから歓迎してるって思われちゃうじゃない!!」
「「え?」」
先輩と私の声が重なる。別にそんな風には感じなかったけどな。歓迎してくれてて安心したって思ったけど。
「最初は若菜に友達ができたなんて嬉しいと思ってみんなで喜んだけどね、椿ちゃんに会って話してすごーく良い子だなーて思ったんだから!!私たちの話楽しそうに聞いてくれてね、学校のこともいっぱい聞かせてくれてね、買ってきたケーキとか優菜と作ったお菓子も美味しいって喜んでくれてね」
多分普通のことなんだけどお義母さんは一生懸命語ってくれててくすぐったくなる。
「隼人なんてご飯の時くらいしかお話付き合ってくれないしお菓子も昔は食べてくれたのにどんどん食べてくれなくなっちゃうし……」
隣で先輩が「昔食べさせられ過ぎたから苦手になったんだろ」と呟きながら変わらずご飯を食べてる。……お義母さんたちが甘いもの作りすぎて苦手になっちゃったんだ、と初めて知って嬉しくなる。
「だから椿ちゃんはすごく良い子だなーって私と優菜がみんなに教えてあげてね、若菜からも椿ちゃんの話をたくさん聞いてね、みんな椿ちゃんだから大好きなのよー!!」
熱弁してるのに口調がふんわりしてて、ありがたいことを言ってもらえて嬉しいと思うと同時にやっぱりお義母さん可愛い、とひたすらに思ってしまう。
「ね、椿ちゃん!!わかってくれたー!?」
「も、もちろんです。嬉しいです。ありがとうございます」
お義母さんは満足したみたいで食事を再開しすぐにもう一度話し始めた。
「もう、隼人って昔から話が適当っていうか雑に伝えるから本当に困っちゃう。人から見聞きした話も自分のねじ曲がった解釈で歪めて覚えるから悪びれなく人に伝えるのよ。困っちゃうわー」
そうなんだ、と先輩を見ると食べ終わって水を飲んでいた。動じない先輩……慣れてるみたいだ。普段見れない先輩のことが知れて楽しいな。
「そういえば若菜が言ってたけど4人で住むんでしょ?」
「え?」
「住まない!!」
突然の話題で驚く私と違い、先輩がすかさず否定する。
「若菜は絶対住むって言ってたわよー」
「絶対住まないから!!」
そんなに否定しなくても良いのに。今考えると中華料理屋さんでの若菜と結城くんの様子に納得がいく。
「どうして?椿ちゃん、私たちは別々の家族だけど本当の家族として今まで過ごしてきたのよ。9人で楽しくて賑やかでね。若菜と昴と4人で住んだら楽しいと思うなー」
「確かに楽しそうですね。先輩はなにがそんなに嫌なんですか?」
「嫌に決まってるでしょ!!結婚したのになんであいつらに邪魔されないといけないの!!」
「邪魔じゃないですよ……」
邪魔者扱いするなんて若菜に冷たいんだから、と苦笑いする。
「たくさんいた方が楽しいじゃないですか。お義母さんが言うように賑やかで」
「賑やかにしたいならたくさん子供がいれば良いでしょ。あ、そうだよ、椿。椿にそっくりな女の子、絶対可愛いよ」
「そ、そうですね。先輩との子供……可愛いでしょうね」
そんな話は初めてで恥ずかしい。でも先輩との子供なら女の子でも男の子でもすごく可愛いと思う。
先輩と見つめ合って、これから訪れるだろう幸せな未来を想像して嬉しくなる。
「子供が7人欲しいってこと?」
「……はい?」
お義父さんの言葉の意味がわからなくて戸惑う。けど、そんなにたくさん子供ができるって考えると体が熱くなって顔が真っ赤になるのがわかる。
「僕たちは9人家族だから、子供は7人ってことになるでしょ?」
「親父!!そういう冗談椿には伝わらないから!!」
「……なんだ、冗談ですか……」
先輩とお義父さんってそっくり。からかい方が心臓に悪い。私はただの冗談だと思って胸を撫で下ろした。
「でも孫の顔は見たいわ」
「母さん俺が前に、孫の顔は見れないって言ったら孫は若菜と昴のところがいるから俺のは良いって言ってただろ」
「あら?そんなこと言ったかしら?7人なんてたくさんのおばあちゃんになるなんて想像できないわね、琉依さん」
「そうだね、でも楽しみだね」
「そうね」
恥ずかしくなったけど子供は欲しいって思うし、お義母さんとお義父さんも楽しみにしてくれて将来がますます楽しみになった。
そう思ってると玄関が騒がしくなって、バタバタと走ってくる足音がしたと思ったらすぐに勢い良くドアが開いた。
「つばきー!!」
そうかな、とは思ったけどやっぱり若菜だった。若菜はそのままの勢いで座ってる私に飛びついてきた。
「椿!!結婚おめでとー!!これで椿と家族だねー!!」
「若菜ありがとう!!」
若菜は私と家族になりたいっていつも言ってくれてたから喜んでくれてすごく嬉しい。
「坂下さん、隼人くん、結婚おめでとう」
「結城くん!!ありがとう!!」
後ろから結城くんも入って来た。
「2人ともおかえりー」
「おかえり」
「「ただいまー」」
「昴は食べてきたのよね?若菜はオムライス食べる?」
「食べるー!!」
そして2人ともまた忙しなく手を洗ってくるとすぐに戻ってきた。
なんだか話に聞いていてわかっていたけどこれが若菜たちの日常なんだな、と思わず笑ってしまう。
戻ってきた若菜はキッチンにいるお義母さんが座っていた隣の椅子を持ち上げようとする。
「若菜、どうしたの?」
「椿の隣が良いー!!」
「え?」
私はリビングの入り口から一番遠い、一番端の席に座っているから隣は先輩が座っているだけ。反対側は誕生日席にするにしてもそばに棚があってきついと思う。
「若菜、無理だよ。そこで良いでしょ」
「若菜、結城くんの言う通りだよ」
「隣が良い!!」
困ったな……。隣を変わってあげるしかないのかな、と隣に座る先輩を見ると我関せずというように携帯を見ていた。
「仕方ない、隼人くん「嫌」……だよね」
そう言って携帯をテーブルに置いて若菜を見る先輩。なんだか一触即発な感じ。どっちも引かないだろうし困ったな。お義父さんもニコニコしてるだけだし……。
……仕方ない、これで納得してくれるかわからないけど私は若菜に言う。
「若菜、向かい側に座ってくれた方が顔が自然に見れるしお喋りしやすいよ」
「椿がそう言うなら良いよー!!」
「そう?良かった」
……なんだか拍子抜けだけど大人しく座ってくれたから良いか。




