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婚姻届提出まで─先輩のお母さんが可愛い─

『婚姻届提出まで』は隼人の実家で終了ですが1話では終わらないです。


「先輩、先輩、どうしましょう」

「今度はどうしたの?」


 私の実家を出発してしばらく経って、私は今さら重要なことに気付いてしまった。


「若菜はお母さんたちになんでも話してるみたいですけど私たちのことはなんて言えば良いんですか?もう全部話してます?」

「親父にだけは話してる。母さんのことがなければ頼りになるから。母さんに関係すること以外ならね。それに若菜もそんななんでもかんでも包み隠さず話してるわけじゃないから他のみんなには伝わってないよ」

「そうなんですね。でもみなさんにも心配かけましたよね。なにも言わなくて良いんでしょうか……。でも今までのこと全部言ったら余計に心配かけちゃいますか?どうしましょう……」


 若菜のことが好きだと勘違いして空回りしてましたーってどんなテンションで言えば良いんだろう。やっぱり言わない方が良いのかな……。


「そんな考え込まなくて良いよ。言いたいなら言えば良いし言いたくなければ言わなくて良いよ。椿の好きにして」

「んー……じゃあ言わないでおきます」

「うん。他にも話したいことはなんでも話せば良いよ。俺の悪口とか言っても止めないから。もっと気楽にしてて」

「悪口なんてないですけど……。頑張ります」

「だから気楽で良いって」

「気楽にできるように頑張ります」


 なんていったって先輩のご両親に会うんだから緊張するし先輩のお家に行くのなんてあのクリスマス以来初めてのこと。あの日のことを思い出したら私も先輩も辛いだけだから考えないようにしよう。



「着いたよ」

「は、はい」


 そして車から降りて久しぶりに見る先輩のお家の玄関の前に立つ。私は改めて気合いを入れ直す。


「あれ?おかしいな、普段鍵かけないのに」

「え、そうなんですか?」

「うん、みんな出払う時と夜寝る時以外は鍵かけないんだ」


 そう言って鞄の中から鍵を出した先輩はドアを開けて私を中に入れてくれる。


「どうぞ」

「はい。お邪魔し「待って待ってー!!」……え?」


 玄関に一歩入ると懐かしいフワッとした叫び声と一緒に、先輩のお母さんがパタパタと走ってきた。


「もう!!インターホン鳴らしてって言ったでしょ!!」

「え、そんなこと言われてないよ」

「言ったわよ!!メッセージ送ったでしょ」

「あの長文メールにそんなこと書いてあった?」


 先輩に問いかけられて首を傾げる。書いてなかったはず。


「あの前に送ったでしょ!!」

「そうだったっけ?」

「もう!!」

「だから長文で送られると読むのが面倒だからやめてって言ってるのに」

「酷い酷い!!隼人はあいかわらず冷たいんだから!!琉依さんに言いつけてやる!!」


 可愛らしいお母さんにクスッと笑ってしまう。そんな時奥の部屋から先輩のお父さんも来た。


「美香、結婚のご挨拶あるあるがやりたかったんじゃないの?」

「そうだった!!こほんこほん」


 なんだろう、結婚のご挨拶あるあるって。先輩を見るとため息をついていた。……私はいったいどうしたら良いんだろう。


「じゃあやり直しよ。椿ちゃん、いらっしゃい」

「え、あ、こんにちは……?」


 急に挨拶が始まっ……挨拶?私は閃いた。


「こんにちは。本日はお時間をいただきありがとうございます」


 よく言いそうな台詞を言うと先輩のお母さんは目を輝かせた。あ、正解だったみたい。


「いえいえ。遠いところを大変だったでしょう。どうぞ、お上がりくださいな」

「ありがとうございます」


 そして私は靴をぬいでお家に上がって靴を揃えてから先輩が持っていたマドレーヌが入った紙袋を持って向き直る。


「おすすめのマドレーヌです。どうぞ召し上がってください」

「わあ!!これはあの有名……じゃなかった、ご丁寧にどうもありがとう。あとで頂きますね」

「はい」

「はい、オッケー!!」

「あれ?ここで終わりですか?」

「終わりよー」

「美香、満足した?」

「ばっちり!!」


 楽しそうに笑うお母さんに私まで楽しくなってしまった。


「椿さん、いらっしゃい。来て早々付き合わせてごめんね」

「あ、いえいえ!!」


 先輩にそっくりなお父さんにそう言われて頭を振る。久しぶりに見る先輩のお父さんは若いけど昔より少し渋くなってかっこいいおじ様って感じ。黒目に近い茶色の先輩と違って青色の瞳がすごく澄んでいて綺麗。


「結婚のご挨拶楽しかったわー。やってみたかったの!!ねえ、隼人、良いお母さんに見えた?」

「うん、見えた見えた」

「棒読みー!!酷い!!ね、椿ちゃん」

「え、そう……ですかね?」


 急に振られて驚いてしまう。お父さんとは対称的に前と同じように可愛らしい女の子というようなお母さん。私より少し低めの身長でパーマがかかったショートカットは可愛らしいお母さんによく似合っている。


「美香、そろそろ」

「そうね!!じゃあ、改めて椿ちゃん」

「あ、はい」

「久しぶりー」


 ガクッ。今さら?気の抜けるほど軽い挨拶に拍子抜けしてしまった。


「は、はい。ご無沙汰しています」

「固い!!もう固いのは良いの!!普通にしてー!!」

「ご、ごめんなさい。お久しぶりです」

「んー、まあ良いかしら。また椿ちゃんに会えてすごく嬉しいの!!飾り付けもたくさん頑張ったからゆっくりしていってね!!」

「はい。……え?飾り付け?」

「こっちこっち!!来て来て!!」


 手招きするお母さんの後ろをお父さんが歩き、その後ろに私たちは続いた。でも私は一言文句を言いたかった。


「どうして先に言ってくれなかったんですか?」

「え、なにが?」

「お母さんですよ。ありがちな結婚のご挨拶がしたかったって、やっぱりワンピースにして正解でしたし手土産も買って良かったじゃないですか」


 私は小声で文句を言った。


「えー?そこまでこだわってないと思うけど。なにも言ってこないでしょ。ちょっと雰囲気味わいたかっただけなんだよ」

「それでもです!!全然違う服装で来たら、なんだか思ってたのとちがーうって思われたかもしれません!!」

「そうかなー?そもそも忘れてたし」

「忘れないでくださいよ!!」


 そういうやりとりをしながらリビングに入って私は目を瞬かせた。


「どう?すごい?すごいでしょ!!」


 お母さんが跳び跳ねる勢いでそう言う。

 リビングは折り紙で作られた輪っかや風船、ウォールステッカーで可愛らしく飾り付けられていて『椿ちゃんおかえりー』と書かれた横断幕が天井に吊るされていて、手作りのくす玉まであった。


「あら?椿ちゃーん?あんまり良くなかったかしら?お帰りは駄目だったのかな、ねえ、琉依さんどう思う?」


 そんな声が耳を素通りして、私はただ驚いていた。歓迎の仕方が子供の誕生日会みたい。


「ふふっ」

「椿ちゃん、気に入らなかった?」

「いえ、すごく可愛くて素敵です!!」

「ほんとー?良かった!!」


 私が笑って言うとお母さんはぴょんっと跳び跳ねてくす玉の隣に行く。


「ねえ、琉依さん。これはいつやるんだっけ?今で良いんだっけ?」

「あ、それは「今で良いかな、えい!!」」


 止めようとするお父さんの言葉を聞かずにくす玉の紐を引いたお母さん。そしてくす玉の中から金色の折り紙と一緒に出てきた紙に書かれた文字には『椿結婚おめでとー!!』と書かれていて椿の文字の横に差し込む形で『、隼人くん』と書かれていた。


「わー!!これってもしかしなくても若菜と結城くんですよね!!」


 私は先輩の腕を両手で掴んで興奮しながら言った。


「……だろうね」


 苦笑いして先輩は答える。


「この飾り付け若菜と結城くんがやってくれたんですか?」

「みんなでやったのよー!!その折り紙は浩一さんと一輝さんが作ってウォールステッカーは琉依さんと彩華さんがやってね、この横断幕は私と優菜が作ったのよ!!」

「ありがとうございます。素敵です!!」


 私は壁に近付いてよく見ることにした。その間にお母さんが、もう夕ご飯食べれる?と聞いてくれて大丈夫ですと答えた。そしたらお母さんは先輩をキッチンに呼んで用意をしてくれた。私は慌てて手伝いを申し出たけど軽く流されてしまった。そういうわけでじっくり飾り付けを見てから振り向くとテーブルの席でお父さんが1人で座ってこちらを見ていた。急に恥ずかしくなった私はバタバタとテーブルに駆け寄った。


「す、すみません、興奮しちゃって」

「ううん。喜んでもらえて良かったよ。座って座って」

「え、はい。ありがとうございます」


 お父さんが立ち上がって私の隣に回ってくると椅子を引いてくれた。慣れないことに戸惑ってしまう。私が座るとお父さんも椅子に戻った。


「いきなり騒がしくてごめんね」

「いえいえ、全然!!嬉しいです!!」


 そういえばお父さんはほとんど初対面なのに2人きりなんて、と今さら緊張する。お父さんはキッチンをちらりと見てから私に向き直ると真剣な顔で言う。


「話は隼人に聞いたよ。今まで辛い思いをさせてごめんね」

「え?そんな!!私が勝手に勘違いしてただけですから!!むしろご心配をおかけしてすみません……」

「気にしないで。もちろん心配はしてたけど僕たちは見守ることしかできなかったからね。美香もあれ、お帰りって書いたら椿さんが気にしちゃうかもしれないけどいらっしゃいはなんだか違うし、ようこそじゃもっと違うような気がするし、おかえりが一番しっくりくるって言ってたんだよ」


 私は横断幕を見つめる。


「そうなんですね。おかえり……。嬉しいです、おかえりって言ってもらえて」


 あの頃罪悪感でいっぱいになりながらこの家に来ていた。付き合う前に若菜の家で先輩のお母さんに会った時とは違い上手く目が合わせられなかった。上手く話せなかった。それなのにおかえり、と受け入れてくれるなんてと胸が痛むけど素直に嬉しいとも思う。


「それなら良かったよ。美香は賑やかで楽しいことが好きなんだ。だからこの家に辛い思い出があるかもしれないけど椿さんが楽しめるようにしたいって一生懸命考えたんだよ。ちょっと子供っぽいけどね」

「ふふ、可愛いです。もう十分楽しんでます」

「えー?これからが楽しいのよー!!みんな来るんだから!!」

「え、みんなって若菜と結城くんですか!?」


 お母さんがオムライスを乗せたお皿を両手にテーブルに来た。


「もちろん若菜も昴も来るけど全員よ、全員!!若菜は元々仕事があったけど、初めから全員集合していたら椿ちゃんがびっくりしちゃうでしょって彩華さんが言うからあとで来るのよー」

「そうなんですか?……どうしよう、緊張する」


 先輩のご両親に会うのに緊張していたのにそんな全員で来なくても……。でも最初に一気に挨拶した方が良いよね。3家族全員が先輩の家族なんだから。






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