決めた
隼人さんが私と同じように嫉妬していたことを聞いてなんだかほっとした。佳代子さんが大好きな人なんだから嫉妬するのは当たり前だと言ってくれたように隼人さんもそうなんだ。いやいや、隼人さんが私を大好きなのはよくわかってるんだけど。だけど隼人さんは誰よりもかっこいいから嫉妬しないと思ってた。
「椿?なんで笑うの?」
「隼人さんでも嫉妬するんだなって思って」
「どうして?するよ」
「だって隼人さんよりかっこいい人はいないんだから嫉妬する人いないでしょ」
「だったら俺のことだけ見て」
「見てるよ。隼人さんだけだよ」
「見てないよ」
「現実的には難しいけど私はずっと隼人さんだけ見つめてるよ」
まだムッとしてる隼人さんに私はあることを思い付く。隼人さんが仕事を辞めてほしいってこれも理由なのかも。働いていたらどう考えても他の人と話すし。
「もっと早く言ってくれたら良かったのに。モヤモヤさせちゃってたんだね」
「言えないよ。心狭いと思われたくない」
「思わないよ」
「心狭すぎって若菜が……」
「若菜は若菜だもん。意地悪で言ったんだよ。私は思わない」
「じゃあ他の男視界に入れないで」
「うーん……だからってそのお願いはきけないんだけど」
だけどね、決めたよ。仕事は辞める。毎日仕事で疲れた隼人さんを明るいお家で出来立てのご飯を作っておかえりって言って迎えたい。
「椿も意地悪だ」
「できるだけ見ないように努力はしてみるね」
すぐには辞められないけど辞めよう。お金のこととか、隼人さんも私も子供がほしいと思ってるしそしたらかかるお金も多くてそういう心配はあるけど。お義母さんたちに相談してみようかな。
「本当に?」
「もう、本当だよ」
人と話すのにその人を見ないなんてできないんだけど私が苦笑いしながら言うと隼人さんはほっとした顔をした。
「俺のことはおしまい。椿は?」
「うん……あのね、飲み会が始まってすぐ三木さんが間宮さんに隼人さんに自分のことをなんて言ってるのかって聞いてそしたらみきちゃんって名前の女の子だと思われてるに違いないって、バレたら殺されるって酔ってこっちに来て殺されるって言ってね。間宮さんは隼人さんは酔うと可愛くなるだけだから大丈夫だって言って、隼人さんは誰と飲んでてもああなるんだって思って。それから間宮さんが向こうには有能な渡辺さんがいるからこっちに来る心配はないって言って、渡辺さんって誰ですかってなったんだ。間宮さんに隼人さんが頼りにしてるって聞いたり青木さんから同い年で会ったこともあってさばさばしてるイケメン好きだって聞いたりで隼人さんが酔ってる間にお持ち帰りされちゃうかもって不安になって家に帰ったら隼人さんも帰ってるかもって言われて19時から始まったのに30分で家に帰って残業して帰るのと同じ時間帯なのにいつもと違って電気がついてない部屋を見て帰ってこなかったらどうしようってもっと不安になってね。早く帰ってきてくれる時は渡辺さんに仕事を任せてるのかなって、信頼してるんだなって思ったら私は隼人さんに頼りにされることないなって寂しくなって、残業して帰ってくると隼人さんに抱き締めてキスしてもらえるしご飯も作っててくれるし、してもらってばっかりで私が奥さんなのに全然駄目駄目だから頼りになる渡辺さんの方が好きになっちゃうって思って」
「俺が好きなのは椿だけだよ」
「わかってるよ。わかってるけど隼人さんはしっかりしてるから大人の頼りになる人が良いってなるかもしれないって」
「ならないよ。それに椿のこと信頼してるよ」
「そんなことないよ。守ってもらってるばっかり」
「椿は強くて尊敬してるし守られるだけじゃないよ。出会った時から俺は椿に救われてばかりだし」
「……そう?」
「そうだよ。言ったでしょ」
「そうだった……」
私気が動転していてそのことを考える余裕がなかったみたい。私隼人さんに頼りにされてるんだ。
「椿だから好きなんだから誰がなんだろうと椿以外を好きになるなんてないよ」
「すごく美人な人でも?」
「椿より美人な人いないよ」
「すごく可愛い人でも?」
「椿より可愛い人いないよ。椿だけを愛し続けるって言ったでしょ」
「うん、ごめんね。わかってるのに不安になっちゃって」
「ううん。何度でも言うよ」
「ありがとう」
私はお義父さんに言われた通り話すことにする。
「隼人さん、私隼人さんがなんでもできるから私も同じようにしないとって思ってたの。隼人さんなら完璧にできるのに隼人さんが言ってくれるように朝ご飯も早く起きた方にすれば良いのにってわかってるのに私がやりたくて……でもできなくて。隼人さんはなんでもできるから自分ができないのが情けなくなって」
「……なにもしない方が良い?」
「嬉しいのは嬉しいの。隼人さんに抱き締められてキスされたら仕事の疲れが吹き飛ぶし隼人さんのご飯は美味しいし。でも隼人さんも仕事してるのに私は楽してるだけで駄目な奥さんだなって」
「椿がそう思うなら「隼人さんならそう言うと思ってた」」
「え?」
「隼人さんならわざとできないようにするって思って、だから言わないでいようと思ってた。だけどお義父さんに言ってもらえたから言うね。私は隼人さんが私のために私に合わせて本当はできるのにできなくすると思って言えなかった」
首をかしげる隼人さんに昴くんから聞いた話をする。
「覚えてる?」
「覚えてない」
「そっか……。だから隼人さんにはもう自分を抑えないでそのままの隼人さんでいてほしいと思って。隼人さんは優しすぎるから、私がそう思わせないように昴くんみたいに隼人さんと同じくらいできるようにすれば良いんだって思ったの」
「そうなんだ……」
「隼人さん私に合わせるって言ってくれたよね。今度はちゃんと合わせるからって。あの時とは違う意味で私は隼人さんにもう自分を隠さないでほしい」
「うん……でも椿……」
「なに?」
「その昴の言ってた話いい話っぽくなってるみたいだけど完全に俺が性格悪いだけじゃない?」
「そんなことないよ。お義母さんに褒めてもらいのにその子のために1番じゃなくしたんだよ」
「鬱陶しいやっかみから逃れたくて思い付いただけだよ。その話自体は覚えてないけど母さんのうざさは覚えてるよ。褒めてほしいとか思うわけないよ。教科ごとにファイリングしてみたのーへー国語国語国語算数社会母さんこっから教科ごとじゃないよ、あら本当だわこうしてこうして、まあ大変、ぐちゃぐちゃになっちゃったわ、わかったよ俺が教科ごとに入れておくから母さんは邪魔だからあっち行ってて。ってこれだよこれ。これが毎月毎月、あれだけされればさすがに俺も覚えてるよ。これで100点取って母さんに褒められたいって思うはずないよ。直したと思ったらなんで外しちゃったのかわからないけどいつの間にかまたぐちゃぐちゃにしてそれを直そうとして騒いで結局俺がやるんだから。うざいにもほどがあるでしょ。あの頃の昴は他の子より落ち着いてたけど小学4年生だから俺の心情を読み間違えてそのまま美談で記憶してるんだよ」
「え、そうかな……けど……」
「でもまあどっちでも良いけど。そしたらどうしたら良い?どうしたら椿はそうやって悩まないでいられる?」
「うーん……どうしたら良いかな」
「俺が早く帰ってくるのは嫌?渡辺さんのことだけど、渡辺さんここ1ヶ月ほとんど定時で帰ってるよ。お稽古があるとか例の人の所に押しかけに行くとかで」
「そうなの!?」
「俺がその日じゃなくて良いものはあとに回して早く帰ってるだけで誰かにフォローしてもらったりしてるわけじゃないよ」
「そうだったんだ」
「うん。椿から遅くなるって連絡がきたら、それなら疲れて帰ってくる椿を労いたいって早く帰ろって思って。それをしない方が良いってこと?」
「うう……けど隼人さんに出迎えてもらえるのは嬉しいのは嬉しいし」
「わかった、じゃあこうするのは?これまで通り早く帰ってこれた方がご飯作っておいて待ってる。朝は椿が作るけどどうしても無理な時は俺が代わる。椿はできなくても落ち込まないようにできる?それができなくてまた不安になっても俺にその気持ちを言うようにして」
「うん。できなくても良いんだもんね」
「そうだよ。俺は俺のしたいと思ったことをするよ」
「モヤモヤするなら私に言ってね。溜め込まないで」
「うん」
そうやって話し合いをした私たちは土曜日の昼間まで眠ってそれからDVDを観てのんびり過ごし日曜日は結婚式場を見に行った。
月曜日からまた私の方が遅くなった時は隼人さんがご飯を作って待っていてくれて、これまでと変わらないけど私の気持ちはすごく変わった。完璧にできなくても良い、失敗しても良いって思うと楽になった。
あのあとお義父さんが話してくれたみたいでみんなから隼人さんが怒られたりして申し訳なくなったけど隼人さんは反省するって言って私の携帯番号を覚えて家に固定電話を引いたりしてくれた。他にもなんだかお義父さんたちがまた仕事の合間になにか作ってくれたりしてみるみたい。なにかあったら話を聞いてくれる人が、助けてくれる人がたくさんいるこの環境は私にとっても優しい。それはすごく嬉しいけど隼人さんが夜中に帰ってきても動じないような強い奥さんにならないといけないと思った私は私に甘くないお母さんや由紀たちに自分で話して怒ってもらった。




