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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
37/62

おかえり


「椿」


 またお義父さんかな。


「椿……椿……」


 違う、隼人さんの声だ。似てるけどやっぱり違う。やっぱり隼人さんが呼んでくれる私の名前はすごく甘くてくすぐったくなる。いや、待って。お義父さんはそもそも椿ちゃんって呼ぶんだった。

 そう思うと同時に意識が浮上して目の前に隼人さんがいた。良かった、帰ってきてくれたんだ。私はいつの間にか横になっていた身体を起こして隼人さんを抱き締める。


「おかえり」

「椿……ごめ」


 おかえりのキスをする。唇を離してふと思う。この唇に渡辺さんも触れたのかな。この身体に渡辺さんも……。匂いはお酒とタバコと隼人さん自身の匂い。香水は?すんすん、匂いをよく嗅いでみるけどやっぱりしない。これはセーフ?アウト?アウトだったら嫌だな。今何時?あれ?2時?朝じゃないの?これはどうなんだろう。してたとしたら早いのかな。……わ、わからない。浮気のドラマをもっとよく観ておくんだった。


「椿……」

「わからないんじゃ仕方ないよね。聞いちゃえ。隼人さん……えっと、えっとね……」

「してない」

「……してないの?」


 首をかしげて隼人さんのまっすぐな目を見つめる。そして11月の極寒とはいえないけど肌寒い日なはずなのに額にうっすら汗をかいてる。顔色もなんだか悪い気がしてきた。大変、渡辺さんを振り切って急いで帰ってきたのかも。


「隼人さん座って座って」

「へ?待って、信じられないかもしれないけど信じて」

「うん?信じてるよ」

「え、そうなの?」


 私は立て膝をついていた隼人さんの右手を握ってソファーの私の隣に座らせた。


「タオル……いや、お水?あれ?この部屋寒いね。暖房つけるの忘れてた。あ、でも暑い?」

「えっと、暖房つけるよ」


 隼人さんはそう言って暖房をつけてくれた。


「寒い?大丈夫?」

「平気だよ。タオルと水は……」

「大丈夫だよ」


 隼人さんはそう言うと横から私を抱き締めてくれた。それから身体を離すとそっと私の頬を撫でてくれた。その手が優しくて嬉しい。


「……たくさん泣かせてごめん。不安にさせてごめん」


 私はゆっくり首を横に振る。


「お義父さんに怒られた?」

「うん」

「ゆっくりしてきてって言ったの私なのに不安になってごめんね」


 隼人さんは私の手をぎゅっと握る。


「話し合いしたい……今すぐ。眠ってたのにごめん」

「ううん。私も話し合いしたいよ」

「言い訳にしかならないと思うけど21時には帰ろうとしてたんだ。でも本社の人たちと前に働いてた支社の人たちがみんな集まって本社と支社の課長の昔話とか支社にいた時の後輩の話とかいろいろ話を聞きながら椿のことを話してたらいつの間にか場所が移動してて」

「飲みすぎちゃったんだね」

「そうみたい。椿がお昼お弁当の時課長と一緒に食べて愛妻弁当を見せてもらってる話とか三木っていうのは女の人だと思ってたのに男の人だって渡辺さんに聞いてショックを受けたり……。あ、えっと……渡辺さんは……えっと……とにかく違うんだよ。美容に良いからって自分で作ってたのは身体に良さそうなものを手当たり次第に詰め込んだだけの不味いやつで婚カツもしてるから女子力と料理上手をアピールするために毎日俺に毒味させて男性社員に渡辺さんは料理上手だって言うように脅されただけだよ。見かねた課長がお見合いセッティングしてその人と良い感じになって今度はその人にアピールするために身体に良い料理を創作してみてるから感想聞かせてって毎日実験台にさせられてるんだよ。紫色の液体とか魚の骨が入ったよくわからないものとか。それで今日はその人の家に押し掛けに行くからって1杯飲んで5分もしないうちに帰ったんだよ。たった5分で爆弾を落として帰っていったんだ。本当だよ。信じてくれる?」

「うん、信じるよ」

「本当に?」

「うん。美味しくなかったの?」

「美味しくない。本人にはごまかして男性社員みんなには気を付けてって言ってた。一生懸命作ってるのに不味いって言えないでしょ」

「そうだね。優しいね」

「初めから椿にあれは不味いって言えば良かった」

「ううん。渡辺さんのことを考えて美味しいとも美味しくないとも言わなかったんでしょ」


 考えてみれば周りの人たちに料理上手だと言うように言われたとかみんなにアピールしていたとしか隼人さんは言ってなかった。


「良い人には違いないからね。料理がド下手なだけで。それでいつの間にか2軒めにいて、気付いた時には支社にいた時の初めに指導してくれた上原さんって人が具合悪いってなってて。その時俺と津田さんって年上だけど支社の時の俺の次に入ってきた人とそのあと入ってきた大森くんって子と本社の幸村さんって人が残ってて、急いで外に出て様子見てて、とりあえず大森くんを帰らせて、それで上原さん家に送ろうってなったんだけどそこから家が遠くて、詳しい場所がわからないから上原さんに聞いても答えられない状態で津田さんが落ち着くまで近くの公園に行って休もうって言って移動してる間に上原さんの鞄をあさって免許証探して、そしたらそこから2時間近くかかる場所でね、どうしようってなって津田さんも上原さんと真逆の方向に1時間半もかかるから帰った方がいいってなって。それで幸村さんが俺にも帰ってって言ってくれたんだけどちょうど幸村さんの奥さんから子供が熱出したって連絡が来て、じゃあ俺が送っていくってことになって。そこで22時になってるのを知って急いで椿に電話しようとしたんだけど携帯がないことに気付いて。で、幸村さんが電話かけて探してくれたんだけど見つからなくて。それでまた奥さんから連絡がきてとりあえず幸村さんにはこっちは大丈夫って言ってタクシーで上原さんを家に送ってから2軒めに行った店に行って携帯を探したけどなくて1軒めに行った店に行って見つけたところで親父からちょうど電話がきて、それで終電もなくなっててタクシー呼んでる時間も惜しくて急いで走って帰ってきたんだ。……っていうのが言い訳だよね。本当にごめん」


 隼人さんは本当に落ち込んでしまってる。私はもう片方の手を隼人さんの手に重ねる。


「上原さん大丈夫だった?」

「……うん」

「良かった」

「椿怒らないの?」

「どうして?隼人さんはやっぱりすごく優しいね」

「優しくないよ。他にいなかったからだよ」

「そんなことないよ」

「話全部信じてくれるの?」

「嘘なの?」

「本当だよ」

「ええ……?本当なら良いでしょ?」


 さっきから同じ言葉を口にする隼人さんに苦笑いする。


「隼人さんが私につく嘘は私を守るためのものでしょ。だから例え嘘でも隼人さんが本当だって言うなら本当のことだよ。本当のことは隼人さんしかわからないんだから隼人さんが私に教えてくれることが真実なの。それを信じるよ」

「ありがとう……」

「でも飲みすぎて可愛くなってる時はちょっと困っちゃう。だけどその前に渡辺さんは帰ってるんだもんね」

「帰ってる。確実に帰ってる。19時5分に帰ろうとしてる渡辺さんに電車10分ですって携帯で調べたから。ああ!!その履歴なら残ってるはずだよ!!ほら!!」

「う……うん。ありがと、証拠」


 証拠がなくても隼人さんの言葉を信じるのにな。でも安心した。


「それに俺がその記憶抜けてるところって椿のことを考えて椿の話をしてる時だけだよ。別の話題になったら平常心に戻ってる」

「そうなの?」

「うん、昴が言ってた。ちょっと椿から話題を逸らして別のことを聞いただけでピタッていつも通りに戻るって」

「寝落ちするの待つしかないのかと思ってた……」

「面倒な時は話題を変えて俺が椿のことに戻るとまたそのモードになってまた話を逸らすと平常心に戻ってるのを一晩に繰り返されて記憶がモヤモヤすることもあるよ」

「そっか……。じゃあ話を私じゃなくしたら良いんだね。でも今度からお酒飲むのは良いけど飲みすぎるのは私が一緒にいる時だけにしてほしいな」

「うん、そうする。絶対そうする」

「できる?」

「みんないつの間にか俺が注文してるって言うけど注文してる時のことは覚えてるよ。なぜかタイミングよく店員さんと目があったり複数で飲んでても全員の視線が逸れた時にタッチパネルでコンマ1秒で頼んだり……それを気を付ければ良いんだよ」

「そっ……かあ。気を付けてね」

「うん、椿のお願いだから絶対大丈夫だよ。椿のいるところなら良いんだよね」

「そうだね。みんな隼人さんにきゅんってしちゃう」

「きゅん……?それはないよ」

「そうなんだよ。お弁当とか三木さんのっていうのは?私駄目なこと言った?」


 私の話をしてたって良い方じゃないのはわかる。知らないうちに隼人さんを傷付けていたみたいだ。


「駄目なことじゃないよ。お昼に外に食べに行かなければ堀内さんと2人きりで食べに行くことはなくなるって思ってたのにお弁当になったら休憩室で課長と一緒になることもあって2人きりで喋りながら食べてるって言うから」

「うん?駄目なの?」

「駄目……ってことじゃないけど嫌。男の人と2人きりにならないで」

「休憩室で食べてたら途中で他の人が入ってきて一緒になったり別の部署の人がいたり2人きりじゃないよ」

「でも嫌なんだよ」

「そうなの?でも課長も結婚してるし私が変なこと言っても気に止めたりしないと思うよ」

「ん?なに?」

「え、だから荒木さんの時みたいに私が気があるって勘違いするようなことを言って危ないことにならないように心配してくれてたんでしょ?」

「え?んー……え?堀内さんとか三輪さんのこと言った時にそう思ってたの?わかってくれたと思ったのに」

「だから心配の必要ないよって。堀内さんは奥さんを大事にしてるし三輪さんは三次元の女の子との恋に興味ないし課長も奥さん大好きだし」

「違うのに。それは心配だけど俺以外の男の人と2人きりになってその人のことを視界にいれてその人のこと考えてると思うと嫌だからだよ」

「話してるんだからその人のこと見てるけど隼人さんの話をしてるんだよ?隼人さんのこと考えてるよ」

「とにかく嫌なの。三木っていうのももっと駄目だよ。俺と同い年じゃん。仲良くしないでよ」

「な……もしかして嫉妬?隼人さん嫉妬してたの?」

「そうだよ」


 私だけ嫉妬してると思ってたのに隼人さんも嫉妬してたんだ。


「三木さんとは普通に話してるだけだよ。みんなと同じように私が気になったこと話しかけてそれを聞いてもらってるだけ」

「間宮さんは仲良く話してるって」

「間宮さんは隼人さんをからかっただけだよ。年が近いから話しやすいのはあるけどみんな話しやすいから」

「椿三木さんの話あんまりしない。話してくれてたら女の人じゃないってもっと早く知ったのに」

「三木さんは出張が多くて会社に戻ってくるの月に合わせて10回ないくらいなんだよ。結婚してから今日が初めて会社に出勤した日なの。いないから話すことないでしょ」

「うーん……そっか」


 隼人さんは釈然としないという感じだけどとりあえずわかってくれたみたい。



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