結婚式のこと
「ねえ、結婚式のことなんだけど」
「結婚式!!」
寝室から戻ってきた隼人さんはパンフレットをいくつか持っていた。そうだ、結婚式のことをまだなにも考えてなかった。タキシード姿の隼人さんは美しいだろうな。
「楽しみ?」
「うん!!隼人さんかっこいいから!!」
「ん?」
「タキシード姿の隼人さんは世界一美しいだろうねー」
「なに言ってるの……。そんなことないよ。椿は世界一の花嫁さんだけどね」
花嫁……ウェディングドレス……まずい。痩せなきゃ。
「そ、そんなことないよ」
「絶対そうなのに。それでね、どこが良いかなって考えたんだ。海外も良いし地元でも良いし、けどこの辺りでもすごく良さそうな場所があったよ。パンフレット貰ってきたからこっちで見よう」
あとで洗うことにして食器を片付けてから2人でソファーに座る。
「みんな地元の方が来やすいし、けどこっちにも招待したい人たくさんいるし……ってこういうのってどんな人まで呼ぶのかな。規模によるのか。どうしよ。あ、そもそもいつ?」
どうしよう、考え出したらいろいろ考えないといけないことがある。
「いつかは決めてるんだ」
「え、そうなの?」
「うん、3月16日」
私は呆然としてしまう。その日は私の誕生日。
「どうして……?言ったことなかったよね?」
「俺がそんな大事な日を昴から聞き出さないわけないでしょ。見事に一緒にいられない時期だったけどね。初めて一緒に過ごす椿の誕生日だから一生思い出に残る日にしたいんだ」
もう嫌、隼人さんを楽しませて幸せにしたいのにいつも私が嬉しい思いをさせられる。
「あ、別の日が良かったらそうするよ。6月とか。ジューンブライドだもんね」
「ううん、3月16日が良い。でもみんなが来れるかな。来年って何曜日だろ」
「土曜日。みんな先読みしてもう休み取り付けてるよ。若菜とか絶対シフト入れないでって店長に頼み込んでるんだって」
「うそ……そうなの?」
「うん。椿が良いって言ったらだって言ってるのに」
「そうなんだ」
知らなかったのは私だけなんだ。早くみんなみたいに隼人さんの考えがわかるようになりたい。と、ふと重要なことを知らないと気付いた。あわあわする私に隼人さんが首をかしげる。
「は、隼人さん……」
「ん?」
「た、大変申し上げにくいのですが……」
「えーなに?」
「隼人さんの……じょ……び」
「へ?」
「た……誕生日……知らない……隼人さんの……」
「ああ、4月11日だよ」
「4月11日……ごめんね」
「なんで謝るの?誕生日なんてほとんど意識しないよ。お祝いも9人いるから纏められるし誕生日に誕生日らしいことしないんだよ。母さんと親父は煩いけどいつもそうだし」
「そ、そうなんだ」
「うん、幼稚園の誕生みたいでしょ。何月生まれの友達をお祝いするって」
「そうだね。それは覚えてるの?」
「覚えてないよ」
「え、そうなの?」
「美織が幼稚園で誰々ちゃんと誰々ちゃんと誰々くんのお誕生日だったって言うからそんなに誕生日が重なるなんてすごい確率だって昴に話したら誕生月が同じ人を同じ日に祝うんだって言われたよ。最近の幼稚園児はそんなことするのかって言ったら俺たちもそうだったって、手形あるでしょって言われた。なんのことかさっぱりだったけど幼稚園の時に手形を取って幼稚園の前で写真を取ったり歌を歌ったりしたらしいよ。俺は手形と写真は嫌々やったけど歌は断固拒否だって逃げてたんだって。それは覚えてないはずだよね」
「うーん……」
「椿もそういうのやった?」
「うん、やったよー。手形も残ってるし、年少さんの時はこのくらいだったけど卒園する時にはこんなだったのって見せてもらったりね」
「ああ、なるほど。成長記録だね。俺たちの子供はうちでもそういうのやろう」
「うん、それは良いね」
「そうそう、結婚式だよ。椿、呼びたい人って家族と友達と?」
「うん、お母さんとお父さんと由紀と千恵と愛ちゃん、あと親戚とか職場の人たち。あ、間宮さんももちろん呼びたいね」
「うん、ガードマンとして役に立ってもらわないとね」
「へ?」
「なんでもないよ。あとはおばあちゃんとおじいちゃんも含めた家族全員、それからメア……は無理か」
「隼人さん?」
「おばあちゃんの親戚でメアリーって女の子がいて他にもそのお兄ちゃんとかみんなも呼びたいんだけど無理かな」
「そうなの?アメリカってことだよね。だから?」
私がそう聞くと隼人さんは寂しそうに首を横に振る。
「それもあるけどそうじゃなくて。今俺メアリーに嫌われちゃってるから」
「そうなの?」
「うん。椿と結婚したよってメッセージ送ったら良かったねって一言だけ。いつもはもっとたくさん言ってくれるのに。長期出張してる間に1回会ってその時にちょっとあって俺に怒られたって気にしてるみたい。俺は怒ったわけじゃないんだけど。おばあちゃんにそっとしておけば時間が解決してくれるって言われたから3月までに解決するのかわからないんだ。時間が解決してくれるってそっとしててなにもしないのにどうやって解決するんだろうって思ったけどおばあちゃんに余計なことをするなって言われたよ」
私は女の勘で察した。そのメアリーちゃんって子は隼人さんが好きなんだ。あの出張中ってことは隼人さんが苦しんでるまま仕事をしていた時。その時にきっとなにかあったんだ。
「おばあちゃんの血筋だから若菜に顔だけ似てるんだ。椿若菜好きだから絶対メアリーも好きだよ。若菜に似てるのに若菜と真逆のすごく優しくて良い子でね。若菜とは大違い。椿に会いたいってずっと言ってたから仲直りしたら紹介するね。って仲悪くなったわけじゃないんだけど」
「う、うん」
隼人さんは多分絶対気付いてない。隼人さんは美織ちゃんみたく可愛がってるつもりでもメアリーちゃんは隼人さんに恋してる。恋敵の私に会いたいわけないよ。結婚したなんて聞かされてショックだっただろうな……。高校生か大学生くらいの子かな。若菜に似た可愛い女の子……それにこれまで隼人さんに思いを寄せてきた人たちのことを考えるとまたモヤモヤする。
「まあメアリーのことはなるようになるって思うよ。あとは竜二さんたち6人と奥さんたちも呼ばないと怒られるよね」
「……えっと、それはそうだよ。みんなに来てもらいたいね」
「誠司は難しそうだな……この前聞いたらピンポイントで合わせるのは難しいと思うけど都合つけて会いたいって言ってた」
「そっか……。残念だけど研修医って大変だもんね」
「あと大学の友達、智也と拓也ってのがいるんだけど年明けに会う予定だから椿も一緒に来て。智也も結婚するから元々相手の子紹介してもらうつもりだったんだ」
「え!?私も行って大丈夫?」
「え?当たり前でしょ。金髪のオーストラリア人だって。どんだけ不釣り合いか見てみよ」
「そ、そんな意地悪なこと言って。外国人なんだ」
「どうやら白人でそばかすのある可愛い雰囲気の美女らしい。俺に会わせると俺に惚れたら困るってなかなか会わせてくれない上に写真すら見せてくれないんだよ。俺が見る分には良いと思うのにおかしいでしょ。だから全部聞いた話なんだ。遠距離恋愛でなかなか会えないし智也が忙しくて連絡1日に1回しかしてくれないって怒って別れるって言い出すんだって。結婚してこっちに住むから友達を作ってあげたいって智也が。椿仲良くしてくれる?」
「うん、もちろん」
素直に甘えられて良いなあ。隼人さんも頑張って頑張ってやっと甘えられる私よりそういう子が良いのかな。……自然に甘えられるようになりたい。そうしたらどんな美人さんよりも可愛い子よりもずっと私のことを見てくれるのに。でも隼人さんはずっと私を愛し続けてくれるって約束してくれた。それは信じてるのに隼人さんの周りには魅力的な人がたくさんいるからその人たちに負けないくらい私も魅力的になりたい。どうしたら良いんだろう。
「だから智也と拓也には結婚式の前にも会って結婚式にも呼ぶよ。あとは会社の人もだね。えっと、だから合わせてだいたい30人くらい?そしたら少人数って括りになるらしいね。えっと、広すぎない会場が良いらしいからこことか。ああ、やっぱり地元より都会の方が良さそうじゃない?ね、どう思う?」
「本当だね、迷っちゃう……けどこのゲストへ感謝を伝えるって良いね」
モヤモヤしながらもパンフレットの1つに書かれていたフレーズが気になって私はそのパンフレットを手に取る。
「賑やかで楽しくてみんなに楽しんでもらえるようにしたいな。私たちが一緒にこうしていられるのもみんなに見守っててもらえたおかげだからありがとうって伝えたい」
「うん、そうだね。じゃあ今度ここ見に行ってみよう」
「うん」
「楽しみだね」
「そうだね」
「椿、椿」
「なに?」
「寝室に置いてある紙袋って下着屋さんだよね」
「へ!?なんでわかるの!?」
「間宮さんがそのブランドの下着は良いって言ってたから」
「ひー!!間宮さんったら!!み、見たの!?」
「見てないよ。昨日期待したけど違ったから」
「そ、そっか……」
「あれはいつ着てくれるの?今日?」
「んー……」
どうしよう。隼人さんの期待の込められた目に動揺する。そんなに期待されると困る。
「えっと……」
「今日が良いなあ。駄目?ねえ」
「う……うん、じゃあ今日……」
「やった。じゃあ早くお風呂入ってきて。食器洗って楽しみにしてるから」
「わ、わかった」
私は迷ったけど黒い方を着てみて、隼人さんはすごく喜んでくれた。
「隼人さん……」
「んー」
「ね、眠いよね、ごめんね」
「ううん、どうしたの?」
「今日みたいな下着好き?」
「うん、けど椿だからどんなでも好きだよ。他にも買ったの?」
「1つね、白いの。全部そういうのに変えようかな……その方が良い?」
「どっちでも良いよ」
「じゃあそうしようかな」
「あ……」
「ん?」
「それ買いに行くのついていって良い?」
「え、下着屋さんだよ。中入れないよ」
「そんなことないよ。男性立ち入り禁止って書いてないなら平気だよ」
「そ、それもそっか」
「それに俺が選びたい」
「選んでくれるの?それは迷わなくて済みそう……」
「ほら、俺の好みで選んで買った方が良いでしょ」
「そうだね、隼人さんの気に入ったのが良い」
「……なんだか明日ベッド変えるのが名残惜しい気になってきた」
「え、どうして?」
「んーどうしても」
「でも買っちゃったよ。明日届くよ」
「うん、それは楽しみだけど。まあ、これからだね」
「え?」
「明日午前中にドラマ観ながらベッドとラック来るの待って、届いて昼ご飯食べたら下着買いにいこう」
「あ、うん」
「じゃあおやすみ」
「うん、おやすみ」
なんだかよくわからなかったけどバスケクラブに行ったし勉強も教えたし疲れたんだろう。隼人さんはすぐに眠ってしまった。幸せそうな顔で眠ってる。
私は隼人さんの周りにいる女の人たちより美人でも可愛くもないし考え事して周りが見えなくなっちゃうしぐうたらだし駄目駄目だけど隼人さんのことが大好きな気持ちは誰にも負けないと思う。隼人さんを幸せにできるのも楽しませてあげられるのも私だけだと思う。だから嬉しくさせてもらってばかりじゃなくてもっと隼人さんを喜ばせたい。まずは……どうしよ。とりあえず痩せなくちゃ。隼人さんにダイエットするって慎重に伝えてからそうしよう。そうだ、ウェディングドレスを着るためにって言えばわかってくれるはず。無理なことはしないのと健康的な体型を目指すってちゃんと言えば大丈夫だ。




